PSO2二次創作小説「時の輪」(19)



この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方(おおよそ7枚目クリアしたくらい)でなければ、ネタバレ状態になりうることをご承知下さい。

初めての方はまず

PSO2二次創作小説「Black Dream」~黒い夢~

をお読みになる事をお勧めします。

PSO2二次創作小説「時の輪」

「プロローグ」

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↓PSO2二次創作小説「時の輪」(19)
ことん、と小さな音を立てる。
リュードが慎重に、丁寧に最後の「部品」を作業台の上に置くと、ジグが感嘆の声を上げた。

「よく見つけたもんじゃな…」

どう説明したらいいか。
そもそも、何故自分だけがこの武器の「声」を聞くことが出来るのかさえ解っていないのに。
作業台の上に並べられた「中軸」「先端」「コア」の3つの部品。
淡く共鳴するように青白い輝きを発している。

「恐らくは、これで全部かと」
「そうじゃろうな。今までの輝きと全く違う。早く直してくれと言わんばかりじゃのう」
「何とかなりそうですか?」
「それがな…」

リュードの問いに、ジグが彼へ向き直る。

「ここの設備じゃ到底間に合わん。こいつを直すには本格的な『炉』が必要なんじゃよ」
「炉?」
「ただ繋げ合わせればいいという代物ではないんじゃ」

武器の部品でごった返している部屋を見回すが、それらしいものは見当たらない。
「柄」にあたる中軸部分を手に取り、ジグはリュードに見せるように「欠落した部分」を指した。

「この破断部分から僅かに滲み出ているフォトンがわかるか」
「はい」

確かに、その場所から異質なフォトンが湧き出すように出ている。
それはまるで「これでもかと詰め込まれたもの」が溢れでるかのようだった。

「一般的に出回っとる武器には『フォトンブースター』を後付けにして強化するものが多いが、こいつは違う」
「ブースターらしきものが…ない?」
「そうじゃ。なのにこれだけのフォトンが内包されておる。己のフォトンを『練り込む』事は、わしも『特別な一刀』に対してやる『技法』ではあるが、一歩間違えると命に関わるんでな。おいそれと出来る技ではない」
「ふむ…」
「これを創ったのは相当の『手練』…いや、下手をすると『ヒト』ではないのかもしれんな。直すにしても相応の覚悟を持って挑まねばならんようじゃ」

人の創ったものではない?
そんなものを、直せるのだろうか?
思わず顔に出てしまった疑問に、ジグが豪快に笑う。

「心配するでない。わしに任せておけ。こいつを直すだけではないぞ、新しい武器を作りたいと、本当に久々に『心が湧いて』おるんじゃ」

実に楽しそうに、嬉しそうに。
ジグは揃ったパーツを繰り返し繰り返し手にとっては眺め、笑う。
本当に「創る事」が好きなのだな。
つられるように、リュードは僅かに笑った。
その時に、ふと思い出す。

「…そうだ、その武器に関して少し気になる事が」
「何じゃ?」

最後のパーツを探す為に浮遊大陸に出向き、そこで出会った「少女」。
破天荒で人の話を聞かない少女は己を「クラリスクレイス」と名乗った。

「…何じゃと?六芒の六がこれと同じ武器を持っておった…?」
「いえ、同じかどうかは」

形状はほぼ同じ。
六芒均衡が持つ武器なのだから、その力は相当なものである筈。
では、ここにあるこれは何なのだろう?
気になったのは「材質の差」。
今目の前にある破損した武器は、どこまでも透き通った青白い光を淡く発している。
しかし、クラリスクレイスが展開させ、その手にしていたものは全体が「紫のフォトン」で覆われていた。

「六芒が持つ武器は『創世器』と呼ばれておる、唯一無二の業物である筈じゃ。…レギアスは知っておるじゃろう」
「『世果』を扱う六芒均衡の、アークスの頂(いただき)…」
「そうじゃ、世果もまた『創世器』の筆頭。あれを扱えるのはレギアス以外におらん」

世果-ヨノハテ。
人づてにしか聞いたことがない、主を選ぶという「伝説の武器」。
同じ大剣使いのリュードにとって、一度は手にしてみたいとは思う武器ではある。
そして三英雄と呼ばれる者達の中で唯一「世襲していない」のがその主であるレギアス。
過去の大戦を生き延びた「証人」。
レギアス自身が滅多に表舞台に出て来ないのも手伝ってか、「六芒均衡の一」の存在そのものを「伝説」のように語る者も居るほどだ。
他の六芒均衡達も、方向性は違いこそすれ「同等の地位と力」を持っている。
そんな者達が扱う「武器」が、二つある可能性?
年季の入った黒いボディを僅かに揺らして、ジグは顎に手をやる。

「両方が本物か、どちらかがレプリカか。あるいは…」
「まさか、六芒が持つ武器が偽物だと?」
「分からん、こいつを直してみない事にはな。…まあどちらにせよ、これほどの業物に携われる事をわしは誇りに思うよ。お主には本当に感謝しておる」

ジグは彼に向き直って笑った。
リュードは笑って小さく首を振ってから、返すように頭を下げる。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「…さて、こうしちゃおれん。わしは工房に戻らせてもらおう」

言うなり、片っ端から道具を片づけ始めるジグにリュードは慌てた。

「工房は何処に?」
「ああ、すまんの。128番艦『テミス』じゃ」
「128番艦、ですね」
「武器の修繕が終わり次第お主には連絡をする。それまでしばし、時間をくれ」
「了解しました」

初めてここを訪ねた時の火の消えたような表情は何処へやら。
水を得た魚とは正にこの事だろう。
しかし。
愛用の工具を自分の元居た船に転送した時、その手をジグは止めた。

「…ここだけの話じゃがな」
「?」
「『サブクラス』というシステムが構築されるという話を知っておるか?」
「サブクラス?」

初耳だ。
首を傾げるリュードに、ジグは向き直った。

「お主のクラスはハンターじゃろうが、それに『別のクラス』を補助的に付けて、アークスの戦闘能力を高めようというシステムが近々採用されるらしい」
「別のクラスを?」
「『全てのクラスで使える武器が必要になるので作成を願いたい』と、本部の武器統括部からわしの所に連絡が来たんじゃよ」
「共通の武器、という事ですか」
「大剣だけではない、十年前の大戦時に流行った『双小剣』や『両剣』まで用意しろと言い出しよった。他の刀匠にも話が行っている筈じゃ。かなり大規模な戦闘システムの補強になる」

全てのクラスで使える武器?
いや、その前に「アークスの戦闘能力を高める」?
何の為に?

「噂ではな、新しいクラスまで用意しているという話もあるんじゃ」
「…新しいクラス…」

十年前の大戦時に人数が激減した時ならばともかく、最近になって採用されたアークスが多いこの不安定な時期に、更に力を与えようと言うのだろうか。
ふと、一抹の不安が心をよぎる。
そんな事を「上層部」が行う意味。
まさか、「予測されている未来」への対策?
その「予測」とは。
床を見たまま考え込むリュードの肩を、ジグが叩いた。

「まあ、お主の技量ならサブクラスが何であろうと、力に振り回されるような事は無かろうよ」
「…この間は意地を張りましたが、俺なんてまだまだです」

此処を初めて尋ねた時の「邂逅」。
『タルナーダ』に見惚れ、扱いたいが故の見栄。
実際、自分の背に有るこの鉄塊とも言える大剣は彼の手に非常に馴染んでいる。
だがそれでも、まだ自分の求める「高み」は遥か彼方に霞んで見えない。
静かに首を振る目の前の男が、ジグは益々気に入ったらしい。

「はっははは!背伸びばかりしたがる若造共とは大違いじゃな!期待しとるぞ!」

ばんばんと発破をかけるように背中を叩かれ、リュードは思わず咳き込んだ。




数日後、それは「突然」発令された。
探索に向けての資材をショップエリアに買い出しに来ていた最中の出来事。
その場に居たアークス達が揃って端末に表示される「辞令」を見ている。
彼ら二人も例外ではなく。

「…ジグじいさんの言ったとおりになったな」
「サブクラスの事ね」

言いながら、近くのベンチへ腰を下ろすエリ。
その隣に座りながら、リュードも今一度端末を開いた。
端末に表示された「辞令」から視線を彼に投げた後。
再び、エリは端末へと眼を戻して思案する。

「私としては、凄く嬉しいシステムだけど」
「どうするつもりだ?」
「私に勧められて来てるのはやっぱり『フォース』ね。『回復と支援』を考えるなら『テクター』を補助職として据えるべきだわ」
「…フォースをメインに据えるつもりじゃないだろうな?」

その言葉に顔を上げると、僅かに不信の表情を浮かべるリュードがいる。
「以前」の出来事が、彼にそんな言葉を作らせたのだろう。
リュードには、目の前の女性が「フォース」として活動する事に一種の「トラウマ」と言える程の抵抗感があった。
フラッシュバックするように記憶が甦る。

自分を護る為に、その生命を消してしまった「フォース」としてのエリアルド。
「事象の羅針盤」に彼自身が干渉する事によって、それは「無かった事」として彼女は今生きている。
しかしリュードの記憶に、それは「起きた事象」として刻まれているのだ。
あの死ぬよりも恐ろしい「喪失感」は二度と味わいたくなかった。
そんな感情が、彼にこんな言葉を吐かせる。
だが、エリ自身にも事象の羅針盤に巻き込まれたが故の「命を落とすまで」の記憶があった。
それ故に、彼女は安心させるように笑みを浮かべる。

「私のクラスはハンターよ?その上でサブをテクターにして回復支援が出来るなんて、私にとってはこの上ない心強さだわ」
「それなら、いいんだが」
「ふふふ、心配性ね」

エリのからかうような笑い声に、リュードは不貞腐れ…いや、照れ隠しだろうか、視線を外した。
こちらの冗談半分の言葉も、至極真面目に捉えてしまうこの不器用な男。
見た目に反して、心は物凄く繊細。
かと思えば強い「相手」に対しては我を忘れる勢いで挑んでいく大胆さも持ち合わせる。
そんな男が、自分自身を誰よりも「想ってくれている」事を、ようやく知る事が出来た。

「そういう貴方はどうするの?」
「俺?」
「そうよ、サブクラスは何にするの?」

ふと自分に振られて、我に返ったように瞬きをする。
考えていなかった訳ではないが。

「そうだな…昔取った何とかじゃないが、『ファイター』かな。もっぱらナックルばかりだったが」
「経験があるの?」
「一応は、ね」

十年前の大戦より以前はアークスの数が遥かに多かった為、クラスも六つに細分化されていた。
しかし大戦によってアークスが激減した為、つい最近までは大まかに統合されていたのだ。
ようやく人員が増えてきた事と、自由にクラスチェンジが出来る「第三世代」が台頭して来た為に、再び「六つ」に細分化された。
ふと、エリは思い出す。

「そういえば…ゲッテムハルト、あの人もファイターだったわよね」

思い出すのは「青みがかった灰色の髪を持つ狂気の男」。
リュードはその言葉に、小さく頷いてから。

「…奴に技を教えたのは俺だよ」
「え?」
「ナックルだけじゃない、大剣や両剣を教えた事もあったかな」

思いがけない言葉に、思わずエリは目を瞬いた。
その反応に、リュードは苦笑する。

「言ったろう、同じチームに居たと。俺が年上で…その分先にアークスとして活動していたのもあって。その時の教官に『お前が教えておけ』と押し付けられたのさ」
「呆れた…何その教官?」
「それだけ平和だったって事だよ。そのすぐ後にあの『大戦』が起きるなんて、誰も思いもしなかった程にね」
「貴方が先輩だったって事なのね」
「人に教えるのも『強くなる方法の一つ』だからな。その頃の俺は『強くなる為』には何だってやった。俺はいわゆる『第二世代』だから、研修生の頃はそれこそ全てのクラスに手を出したよ。法撃職だって試したさ。…射撃職はどうやっても馴染めなかったがね」

第二世代。
その言葉に、ひたすら彼が「大剣に拘る」理由の一端があった。

「リュードは第三世代じゃなかったのね?」
「俺の年を考えれば分かるだろう?…結局俺のフォトン特性はソードが一番符合してて、それ以来ずっとこれだけどな」

背中のタルナーダを見るその目には、懐かしさと苦痛が入り交じる。
「ただ拘っていた」のではなく「それしか選択肢が無かった」事もあったのだろう。
一度クラスを決めると、簡単には変更できなかった世代。
ゼノやエコー達は、その世代の最後のアークスでもある。
見知らぬアークスがロビーで仲間たちと「辞令」を見ながら議論している光景を、リュードは遠い目をして見つめていた。

「あいつは『ナックル』の使い手としては俺を凌ぐ勢いで強くなって行った。負けた事の無い、危うい強さのまま…な」
「そうだったの…」
「いつか人を殺すんじゃないかと、それだけを危惧していたんだが…」

その後の言葉が出てこない。
他でもない、自分が「大量虐殺」を引き起こした張本人。
ゲッテムハルトを責める事など到底出来ない。
連想ゲームのように思考が堕ちて行き。
そこで、ようやく我に返る。
すぐネガティブに考えてしまう己を自戒するように、リュードは首を振った。

「いかんな、つい」
「うん」

茶化すわけでもなく、否定する訳でもなく、エリは柔らかい笑みを浮かべていた。
全てを己の内に封じ込め、心を閉ざしていた頃から比べれば雲泥の差。
話してくれるようになった事がただ嬉しい。
自分が信頼されていると、実感する。
視線を外し、リュードは立ち上がって身体を解すように動かしてから。
拳を作っては開いて頷く。

「久々に、ファイターのスキルを磨かないとならんか」
「あくまで『攻撃能力』の上昇を目指すのね?貴方らしいわ」

からかうように、エリは少し意地の悪い笑みを浮かべてそう言ったのだが。
リュードは少し考えるように手を止めて。
彼女を横目で見てから、ニヤ、と含み笑いを浮かべる。

「…お前が回復や支援をしてくれるなら、俺は遠慮無く暴れられるよな?」

その表情が今まで見た事が無いものだったので、エリは動揺を隠し切れずに思わず立ち上がった。
つまり、今まで以上に無茶や無謀をするって事?

「え…ええ?!私そんなつもりじゃ…怪我前提で戦うつもり?!」

狼狽して詰め寄るその姿があまりに普段とかけ離れていたのもあってか。
逆にリュードの方が目を丸くして、思わず吹き出してしまう。

「くっくくく、冗談だよ」
「…んもう!」

滅多にジョークなど口にしない人がたまにこういう言動をすると「冗談」に聞こえない。
エリは膨れっ面を隠そうともせず、ぷいと横を向いた。

「さっきの仕返しだ、そう怒るなよ。もう無茶はしないって約束しただろ」

声を出して笑うその顔は、悪童そのもの。
つられるように苦笑しながら、エリはふと思った。

きっと十年前もこうして、仲間と共に笑っていたのだろう。
大戦が起きるまでは、至って普通の青年だった筈。
自分がそうであったように。
その頃の表情に戻りつつある事が良い事かどうなのかは、彼女には分からなかったが。
それでも、その「屈託のない笑み」を自分に向けてくれる事が嬉しかった。




「あれぇ?エリアルド先輩じゃないですか?!」

エリの背後から、唐突にハリのある女性の大きな声が飛んで来た。
彼女が振り返ると、濃い茶色の長髪を揺らした若いニューマンの女性が立っている。
嬉しそうに、こちらへ駆け寄って来た。

「やっぱりそうだ!先輩だ!」
「…ウルクちゃん?!」
「きゃー!お久しぶりです先輩!!!」

周りに居るアークス達が驚いて振り返る程の声を上げて、ウルクと呼ばれた女性は駆け寄るなりエリのその手を取って跳ねるように振る。
エリもそれに答えるように、満面の笑顔で彼女の手を握り返した。

「元気だった?」
「私はいつでも元気ですよぅ!それだけが取り柄なんですから!」
「良かった、この所姿を見なかったから心配してたのよ?」
「そりゃもう忙しくて!色々走り回ってたんですからね!」

女三人寄れば姦(かしま)しいとはよく言うが。
二人だけでもこれだけの喧騒。
リュードは呆気に取られて、少し離れてその様子を見ている。
ようやくその様子に気付いたエリが、リュードに向き直る。

「あ、そうだ。紹介しなくちゃ。彼はリュードよ」
「リュードさん、初めまして!ウルクって言います!よろしくお願いします!」
「…あ、ああ、よろしく」

元気の塊、とでも言えばいいのだろうか。
天真爛漫な笑みを浮かべて、これでもかと大げさに頭を下げるウルク。
こういうタイプは身近に居なかったのもあって、リュードはただ圧倒されるだけ。

顔を上げて改めてリュードを見て、ウルクはその姿とエリを交互に見てから。
唐突にエリの腕を掴んで引きずるように離れ、リュードに背を向けた。
ヒソヒソと耳打ちをするように、エリへ呟く。

「…先輩、ひょっとしてあの人が探してた?」
「うん。前に言ってた人よ」
「あのコート、私が染めたやつですよね?」
「そうよ、あの時はありがとう。凄く彼も気に入ってるみたい」

以前、ゲッテムハルトから受け取ったコートを紅く染めたのが、どうやら彼女らしい。
ちらちらとリュードに視線を何度も送ってから。
ウルクは妙な笑みを浮かべて、エリを見た。

「そーかー、あの人がねー」
「何?変な顔して」
「だって、山のように言い寄ってくる男どもを押しのけて探してた人じゃないですか。どんなすごい人かと思ってたら…思ったより普通の人だったから。ふーん、ああいうのが好みだったんですねー?」

ウルクは思った事をすぐ口にしてしまうタイプらしい。
エリは思わずむっとした表情を浮かべてしまった。

「失礼ね、彼をその辺の男と一緒にしないで欲しいわ」
「そうなんです?」
「そうよ。大体そこらにいるアークスよりずっと強いんだから」
「…ベタ惚れですねー先輩、何だか違う人みたいですよ?」
「どういう意味よ」
「超堅物だったエリ先輩が男性の事でムキになってるんでびっくりしてるんですよ。良い事じゃないですか」
「ムキになんてなってないわよ、本当の事を言ってるだけ」

ニヤニヤと笑ってからかうウルクに、エリは意固地になって反論する。
しかし。

「…いい加減やめて欲しいんだがな。この往来で」

気付くと、腕組みをして怒りと呆れの入り混じった表情を浮かべるリュードが居た。
最初は小さな声で話していた筈が、いつの間にかダダ聞こえになっていた。
元々ウルクは地声が大きいのも手伝って、人の目を集めてしまいがちのようだ。
仏頂面で二人を見ているリュードに、ウルクは慌てて笑顔を作って頭を下げた。

「あっ!!!すいませんすいません!」
「…ごめんなさい、久しぶりに会ったからつい」

エリは思わず口を抑える。
冷静沈着な大人の女性として振る舞うエリしか見た事のない彼にとって「はしゃぐ彼女」の姿は可笑しくもあった。
こんな顔も出来るのかと、リュードは思わずため息混じりに苦笑する。

「…続けるなら少し場所を変えた方がいい」
「うん、そうね」

流石に、人が多すぎる。
雑踏から逃げるように、彼らはショップの集まっている区画から別の広場へと移動した。
エリが片隅のベンチに腰を下ろすと、ウルクがその隣に遠慮無くすとんと座る。
リュードは少し離れた壁に寄りかかるようにして立った。

「で、あれからどうなったの?」

エリの質問は、ウルクの「就職」についてのもの。
以前から、アークスになりたいと豪語して回っていた。
半年ほど前に、なりふり構わずアークスに「どうしたらアークスになれますか」と片っ端から声をかけていたうちの一人がエリだったのだ。
ウルクは言葉を濁すようにして苦笑した。

「それがですね、なかなかうまくいかなかったんですよ、それでずっと走り回ってて」
「どういう事?」
「私、全然フォトンを扱う才能が、ホントにぜんっぜん無いんです」

言われてみれば、とリュードは彼女を改めて見る。

少なからず、アークスになる「資質」というものが存在する。
それは「フォトン」を扱う力の大きさと、フォトンそのものの「内包量」。
戦う為に利用するフォトンを扱う能力は勿論の事、自身が持つフォトンの量は最重要項目として設定されている。
それはフォトンがそれを内包する「命」を守っているからに他ならない。
何より、アークスが戦う「相手」の性質があるからだ。

ダーカーの残滓は、それがそのまま「侵食」を引き起こす。

侵食。
ダーカーの因子やその残滓によって肉体や精神が汚染され、凶暴化し、命を落とす状態を言う。
侵食された生命体はその身体が赤黒く変色し、芽のようなものが吹き出して周りのもの全てに襲いかかる。
そして侵食状態が最大になった生命体は未だかつて「助かったもの」が無かった。

彼ら「アークス」の相手は、ダーカーやそれによって侵食された「原生種」。
フォトンを持たない龍族がダーカーと戦い続けたせいで「侵食」される者が増えている事は以前の「アキ」との行動で知っていた。
今や生物ですら無い「機甲種」さえもが、侵食されたものが多数確認されているほどだ。
それ程までに、ダーカーの存在は「フォトンを持たざるもの」にとって危険極まりないもの。
フォトンを持たず扱えない人間は、アークスとして戦う事はおろかダーカーの確認されている惑星に降り立つ事すら許されていない。

フォトンの塊、とまで言われるエリは勿論の事、リュードも並のアークス以上のフォトンを内包していた。
そしてフォトンを持つ者は、差はあれどその「大きさ」を感じ取る事が可能。
だがフォトンの性質に敏感であるはずのエリでさえ、目の前の女性からは微塵も「フォトン」を感じ取る事が出来ない。
その種族はフォトンを扱う事に長けた「ニューマン」であるにも関わらず、ここまでフォトンを持たないのはかえって珍しいと思える程に、ウルクのフォトン内包量は「無」に等しかった。

「アークス関連の職員とかは?」
「それも頼んでみたんですけどね、予備役みたいな扱いだそうで。非常勤であってもフォトンを扱える力が微塵も無いってのは難しいって言われちゃいました。それでも私食い下がりまして!」

何処までも前向きなウルク。
ふと、リュードは思わず口を開いた。

「…何故、そこまでアークスに拘る?」
「え?」

確かに、他にも山のように職業はあった。
一般市民にしか出来ない仕事も沢山あった。
アークスよりずっと安全で、高給なものも。
それを全て擲ってアークスに関わろうとする彼女が、リュードには理解出来なかった。
ウルクは頭を掻いて立ち上がる。

「笑われちゃうかもしれないですけど…友達が居ましてねー」
「友達?」
「あいつ、引っ込み思案で臆病なのに、何をトチ狂ったか突然『アークスになる!』とか言い出してですね」
「前に言ってた彼のこと?」
「そうなんですよ!!それが実際に『才能』があったりしたもので、一人でアークスになっちゃったんですよ!」

と、ずいっとエリに詰め寄る。
物凄い剣幕のウルクに、エリですら気圧される。

「一人でやってけるのかって思っちゃいますし、最近会ってないし、何よりあいつ凄くいい加減でやる気無いんですよ?そんなのがアークスでやってけると思います?もー心配で心配で…」

照れ隠しのように、笑いながらまくし立ててはいるが。
それでもその中に「不安」が内包されている瞳が左右に揺れる。

「でも何よりも、私自身が凄く憧れてたんです。アークスに。少しでも関わりたい、それであいつのバックアップになればって…思ってて」
「そうなのね…」
「でもですね先輩!聞いて下さい!」

そこまで言って、ウルクが突然目を輝かせた。

「え?」
「私今度、アークスに特別枠で合格しちゃったんですよ!!!!」
「は?!」

やたらと上機嫌だったのはそのせいなのだろうか。
唖然と見つめるリュードに、これでもかとはにかんだような笑顔を見せる。

「いや、だって今『才能のない人間は採用されない』って言っただろう?」
「特例中の特例だったらしいんですけどね、たまたま偉い人が私の頑張りを見て許可を出してくれたらしいんです!」
「えーと、おめでとう?」
「ありがとうございますありがとう!!虚仮の一念何とやら!って奴ですよね!!」

再び、エリの手を掴んでこれでもかと上下に振るウルク。

「これでようやくあいつに胸張って話出来ますよ!」

相当、無理をして来たのだろう。
心の底から喜んでいる。それを隠そうともせずに、笑顔を振りまく。
エリにはその気持ちが痛いほど理解出来た。
きっとウルク自身は気づいていないのかも知れないが、その「彼」が彼女にとっては「大切な存在」なのだろう。

しかし。
リュードは彼女の「別の言葉」に僅かに眉を顰めていた。

たまたま偉い人が見て?
そんなに簡単に「例外」を作るような組織では無い筈だろうに。
嫌な予感がする。
だが純粋に目標に近づいて喜んでいるウルクを見ると、無碍にそれに水を差す事は出来ない。
そんな気持ちがつい、言葉になった。

「それで?どんな仕事に付いたんだ?」
「アークスが使う資材をシップ間で運搬する仕事です!裏方っぽいですよね?でも重要ですよね?」
「ああ…そうだな」

自慢げに胸を叩くウルクに、リュードは苦笑した。
それならまあ、表立って動くわけではないだろう。
危険度も一般の資材運搬船と大差ない。
エリは笑って、頷いた。

「本当に良かったわね、ウルクちゃん」
「これからもっともっと忙しくなりますんで、なかなか会えなくなりますけど」
「頑張ってね」
「はい!同じ『アークス』として、よろしくお願いします!」

よーし頑張るぞー、とウルクは拳を振り上げて叫んだ。
それがまた、近くを通った別のアークスの視線を引き、慌てて拳を下ろす。
そして、ふと思い出したようにエリに向き直った。

「そうだ先輩、この仕事に付く事になってすぐにヘンな噂を聞いたんですけど」
「ヘンな噂?」
「何でも、勝手にナベリウスの地質を調査してたひとが行方不明になったとか何とか」

その言葉に、リュードの顔色が僅かに変化する。
脳裏に一人の顔が浮かんだ。
地質学者と言えば、あの何にでも首を突っ込みたがる男が居る。
まさか、な?
リュードの表情に、ウルクは首を傾げる。

「あれ?知ってる人ですか?」

リュードは慌てて首を振った。
下手に知られると不味いかもしれない。

「いや、それで?」
「一人でナベリウスの凍土に降りてったっきり、音信不通になっちゃったんですって…怖いですよね」
「そうね…」
「アイツもそんな風にならなきゃいいけど…」
「ちゃんとしたアークスとして活動してるなら大丈夫だと思うわ」
「そうですよね、大丈夫ですよね!」

まるで自分に言い聞かせるように、ウルクは何度も頷いている。

「そろそろ私行きますね、またよろしくです!」

じゃあ、と手を上げて足早に去っていくウルクを笑顔で見送るエリだったが。
振り返ったその顔は険しいものだった。

「…凄く嫌な予感がするのは私だけ?」
「確かめに行こう」

そう言って駆け出したエリを追おうとして。
再び「視線」を感じるリュードが居た。

また、見られている。
浮遊大陸で自分を見ていた気配と同じ。

でも今は、それに気を取られている場合ではなかった。
何の目的で自分を見ているか、察する事も出来るからだ。
少なくとも、殺気は無い。
一度目を閉じ、リュードは意識を切り替えた。



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