PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(1)

この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
PSO2二次創作小説「Black Dream」~黒い夢~

PSO2二次創作小説「時の輪」(Ep1該当)

PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2該当)
プロローグ

(1)
 
 
 
ダークファルス・エルダーの襲来は「アークス」及び「オラクル」に壊滅的な被害を及ぼした。
マザーシップこそ無事だったものの、アークスシップの7割が破壊された船団の駐留している宙域はデブリの嵐が吹き荒れている。
襲撃により「オラクル行政府」及び治安を任されていた「軍部警察機構」が機能停止した為、秩序は崩壊。
破壊されたシップからの生存者、脱出してきた救助艇が無事なシップへと雪崩れ込む形になり。
一般市民の居住区はまるでスラムのように人がひしめき合い、一部は暴徒化、略奪行為が起き始めている。
アークスエリアも例外ではなく、他シップから逃げてきたアークスがロビーに溢れかえっていた。
無気力に座って動かない者、絶望してただ泣く者、怒り狂う者。
戦いを恐れ、アークスを辞めていく者も少なくなかった。



『オラクルよ、アークスよ、よくぞ今まで我と戦った』

『だが、今のままでは悔しかろう?』

『これより、10日の猶予を与えてやろう』

『10日ののち、我は再びここを訪れる』

『我が望むは闘争。戦いこそ、我の存在意義』

『戦おうではないか、アークスよ。精々、抗ってみせるがいい』



そんな言葉を残し、【巨躯】が突如姿を消したのが数時間前。
彼らの母艦であった「ナウシズ」は奇跡的に無事であったが。
例に漏れず、その内部は混沌とした空気に包まれていた。


―10日後に、私達は死ぬのね

―その10日だって、本当かどうか分からねぇんだぞ?

―今すぐ、奴が襲ってきたっておかしくないんだ

―もう、おしまいだ

―今度こそ、俺達は滅びるんだ


聞こえてくる会話は、どれも絶望。
リュードは喧騒を避け、ロビーの片隅で紅く変質した宇宙空間をただ見ていた。
傍らには、呆然と座り込んだままのエコー。

「二人共、大丈夫?」

声に振り返ると、そこに左腕をギプスで固定し、肩から保護バンドで吊り下げている状態のエリが立っている。

「そっちこそ、大丈夫なのか」
「…ん。ローラに応急処置して貰ったから…」
「そうか」
「あなた達は、怪我は…?」

エリが歩み寄ると。
茫然自失状態のエコーに視線を落とし、リュードは力なく笑う。

「怪我…?あるわけがない…。俺は、俺は何も…出来なかった」
「…リュード」
「ゲッテムハルトを止められなかった…エルダーを阻止出来なかった…ゼノ達を見殺しにした…俺が…オラクルを…」

ただただ、己を責め続ける。
エリはその腕を掴み、首を振った。

「お願い…やめて」
「本当の事だ。俺の思い上がりが、この事態を招いたんだ…」

クラリッサを奪われなければ。遺跡に降りなければ。
自分がエルダーになっていれば。
頭の中を駆け巡る、後悔と懺悔。

どこかに、それに頼っていた自分が居た。
エリの時のように、これが「変えられる」のだと思っていた。
しかし、歴史の修復が出来るであろう事象の羅針盤―マターボード―は、彼には答えなかった。
それは「起きなければならない事」とでも言うように。

「いいえ。あれは誰にも、止められませんでしたよ」

背後からの声に二人は振り返る。
そこにいたのは。

「…カスラ…!」
「こんな姿で失礼します。どうしても、お話しておきたくて」

戦闘服ではなく、普段着に身を包んだカスラ。
リュードは驚いて、向き直った。

「無事だったのか…!」
「ええ、ゼノ君が、私を助けてくれたのです…」

その名前に、エコーが我に返った。
カスラに詰め寄るように、縋るように駆け寄る。

「ゼノが…ゼノは?」

カスラはふっと、表情を曇らせた。
それが全てを物語っていた。

「…彼は私と別れ、エルダーを引きつけるように遺跡の奥へと」
「囮に…?」
「ええ。【巨躯】は明らかにゼノ君を狙っていました。それを利用したのでしょう…何故エルダーが彼に固執していたのか…」

理由は分かる。
エルダーの身体が「ゲッテムハルト」だったからだ。
リュードとゲッテムハルトの間に因縁があったように、ゼノとゲッテムハルトの間にも確執が存在していた事が理由である事は明白だった。
そのゼノが「リュード」を庇うように逃した事が、拍車をかけたに違いない。
カスラは俯き、エコーの両手を取って謝罪する。

「申し訳ありません…私が付いていながら…」

だが。
エコーは、ふと、笑った。
振り切るように、カスラから離れ。

「…いいんです。ゼノならきっと…そうするって分かってました」

リュードはその言葉に我に返る。

「それに、カスラさんだってこうして助かって戻ってきてるんです。ゼノだってそのうちひょっこり帰ってきます。大丈夫、大丈夫ですよ」

気丈に。
笑顔を浮かべ、両手を拳にして。
誰よりも泣きたいだろう、喚き散らし、己を失ってもおかしくない状況であるのに。
エコーは、笑っている。
エリは頷いて、エコーへ歩み寄った。

「…そうね、そうよね。私もそう信じてるわ」
「うん」

エコーとエリがお互いに確かめるように頷きあい、笑うのを見て。
カスラもまた、笑みを浮かべる。

「…それでは、私はまだ各方面への報告がありますので、これで」
「ああ」

立ち去ろうとするカスラだったが、ふと思い出したように振り返る。
もう一度、リュードへと歩み寄った。

「そうそう、これを言い忘れていました」
「何だろうか?」
「間もなく、レギアスよりオラクル全域に何かしらの通達がある筈です」
「六芒の一から?」
「行政府が機能していない今の混乱状態を納めるのが、我々の役目でもありますからね」

そう言い残し、カスラは立ち去った。
リュードは思わず、笑っているエコーへと視線を投げる。
視線がかち合い、エコーは思わず目を丸くした。

「…どうしたんです?あたしの顔、何か変?」
「いや…」

強い。
何と強いのだろう。

リュードは心から、そう感じた。
そんなリュードの心を感じ取ったのか、エコーは再びはにかんだように笑みを浮かべる。

「大丈夫。あたしは大丈夫です。待たされるのには、慣れてるから」
「そう?ゼノを待たせてたのはエコーの方だと思ったけど」
「あ、ひっどい!あたしだって同じくらいゼノに振り回されてたんだから!」

そう言って笑い合う目の前の二人の女性。
女は強い、とはよく言うが。
自分を責める事しか出来ずに居た自分がとてつもなく矮小に感じて、リュードは思わず小さくため息を付いて笑った。

「…そうだな、ゼノはきっと戻ってくる」

エコーは胸を張るように両手を腰にあて、リュードに向き直った。

「ゼノが留守の間はあたしがその分きっちりしないと。よーし、頑張らなくちゃ!」

鼻息も荒く、エコーは頷いた。
リュードとエリは思わず顔を見合わせ、苦笑する。




突然。
ロビーのそこかしこに設置されているモニターから、一斉にアラートが鳴り響く。

「…?!」
「何…?」

雑然としていたロビーが一気に静まり返る。

『…聞こえるか、オラクルに住まう諸君。そしてアークスの諸君。私はアークスの頂、六芒の一、レギアス』

モニターに映しだされたのは、六芒均衡の一。
アークスの頂点に立つカリスマ、レギアス。

『オラクル行政府及び軍警察、アークス上層部の依頼を受け、私がこの場にて諸君らに通達する』

恐らく、全てのアークスシップ、全ての市街地にこれは流されているのだろう。
固唾を呑んで、ロビーに居た全てのアークスがモニターに見入っていた。
リュード達もまた、例外ではなく。


『諸君も知っての通り、ダークファルス・エルダーが復活、オラクルが強襲され、甚大な被害を被った。
また、貴奴は大胆にも「十日後」にこのオラクルを壊滅させると宣言した。
これは、我々人類に対する「挑戦」である。
傷つき疲れた者も居るだろう。戦いを恐れ、逃げる者も居るだろう。
それを責める事は出来ない』


レギアスの言葉に、項垂れる者も少なくなかった。
それを承知で、レギアスは力強く、言葉を続ける。


『だが、このまま我々は滅びを待つ訳には行かない。
故に私は、我々六芒均衡と共に戦う者を求める。
その心にある怒り、悲しみを力に変え、生き抜く事を選ぶ者を、私は求める。
意思ある者よ、今一度立て。
共に人類の誇りを、取り戻そう―』


レギアスはそうして、モニターの向こう側へ消えた。
ロビーが騒然とし始める。
流石というべきだろうか。
渦巻く『熱気』が、一気に加速する。


―戦うしか、無いよな

―どうせ死ぬなら、やるだけやってみようぜ?

―そうよね、もう何も失う物なんて無いんだから


元々、戦うことを生業としていたアークス。
「目的」を見出だせば、当たり前のように立ち上がる者達ばかり。
心にふつふつと湧き上がる力。

「…俺は行く」

既に何も映っていないモニターを毅然と見続け、リュードは呟いた。
エリがリュードの隣に立ち、同じようにモニターを見上げる。

「そうよ、私達は生きてるんだもの」
「ただ…エリアルドはそれじゃ戦えないわよね?」

エコーが思い出したように、エリを見る。
エリは我に返った。
己の左腕。
ゲッテムハルトに折られ、全治一ヶ月と診断された腕。
その上、この野戦病院のような状態でモノメイトを始めとする薬も不足している。
到底、武器を握る事さえ出来ない。

「…それでも…!」
「戦えない者が戦場に行く事程邪魔な事はない」

冷たく、リュードはそう言い放った。
それがまるで「以前の口調そのまま」だったので、エリは一瞬青ざめる。
また、置いて行かれる?

「…待って、お願い、私も…!」
「駄目だ」

わかってる、わかってるけど!!
側に居たいというエリの感情がこれでもかと伝わって来る。
それが心を揺さぶる。
だが。
だからこそ。

「お前は、その腕を治せ」

あくまで冷酷に、そう云うしか出来ない自分に腹が立った。
そもそも、エリが腕を折られたのも自分が不甲斐なかったからだ。
これ以上彼女を傷つけさせるわけには、いかない。

項垂れ、リュードから離れるエリに。
エコーが歩み寄る。

「…エリアルド、あたしも居るから」
「エコー…」
「あたし、正直怖くてダークファルスとなんて戦えない。だから、あなたみたいに怪我して苦しんでる人の為にここでメディカルセンターの手伝いをするわ」

諭すように、エコーはエリの右手を取った。

「待ちましょ、あたしと一緒に」
「……」

それでも、後ろ髪を引かれるようにリュードを見る。
その様子に、リュードは一瞬にして冷静になる。
もはや不安を隠そうともしていないエリは、十年前に救い出した時の表情そのままだった。
自分の態度が、彼女の不安を掻き立てているのか。

あの時、俺はどうした?
彼女を切り捨てるような事を言ったか?
自分の無力を棚に上げ、彼女に当たり散らすようなことをして、何の意味がある?

「…ダメだなぁ、俺は」
「え?」
「すまん。言い方が悪かったよ」

ふぅと小さく息をして、エリの両肩にそっと手を置く。

「俺が戻ってくる場所、守るべき場所は『ここ』だ」
「…!」
「待っていてくれ。必ず帰ってくる」

リュードは笑う。
その笑みはとても暖かく、そして力強い。
エリの瞳から、一筋の涙が落ちるが。
暫くの沈黙の後、エリは呟いた。

「…必ずよ?」
「ああ」

その目には、光。
エコーが思わず苦笑した。

「なんか、やけちゃうな。羨ましい」
「もう、馬鹿ね」
「いい?リュードさん。エリアルドをこれ以上泣かせるような事したら、許さないわよ?」

リュードに詰め寄り、鼻先に指を突き付けてエコーが言い放ったその言葉に、リュードは思い出す。
それは「事象の羅針盤」によって可能性事象の彼方へと消えた言葉と良く似ていた。
だが、あの時に一緒に居たゼノは居ない。
そんなエコーに気を遣わせてしまった事を悔いる。

「ああ、約束する」

言い放ち。
リュードは彼女たちを背に、雑踏のロビーを歩き出した。
自分の背を押す視線が振り返る事を許さなかった。
振り返ったら、戦いに赴くこの足が止まってしまう。
それが、判っていたから。



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