PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(3)

この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
PSO2二次創作小説「Black Dream」~黒い夢~

PSO2二次創作小説「時の輪」(Ep1該当)

PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2該当)
プロローグ
(1) (2)


(3)
 
 
 
オラクル全体がざわりと揺れた。

「案の定と言った所かな…」

レギアスが、らしからぬため息を付いて立ち上がる。
通達からまだ丸1日しか経っていない。
オラクル全域に再び非常警戒警報が発せられ、赤色灯が一斉に点灯する。
歪曲し赤化した空間が徐々に大きく、近付いて来ているのが肉眼でも見て取れた。
カスラが通信の向こう側で呆れたような声を上げる。

『こちらの動きは筒抜け、そういう事でしょうね』
『は、望む所だ。こっちはいつでも行けるよ』
『こっちも万事準備オッケーだ!!』

マリアの嘲笑と、無駄にテンションの高いヒューイの言葉に。
レギアスが小さく頷き顎を上げた時、赤く変色した空間から無数の「腕」が飛来し始める。
更にアラートが大きくなった。

「予定通り、マリア、カスラ、ヒューイの3大隊はファルスアームを迎撃してくれ」
『了解です。ご武運を』
『出来るだけ多くのアームを』
『出来るだけ派手に、だな!!!』

エルダーからの刺客との戦いが始まった事が、あちこちに巻き起こる閃光で分かる。
リュードは、レギアスの背中をただ見据えていた。
死地に仲間を送り出す。
その肩にかかる重責は如何なるものか。
レギアスは振り返り、大型キャンプシップで待機している目の前の12名に相対した。

「…ナウシズの面々も準備は整ったようだな」

リュードは端末を開き、既に展開しているナウシズの無数のキャンプシップの状態を表示させた。

「現在、我々のキャンプシップを中心に楔型陣形にて待機中」
「了解した―では行こうか、諸君」

まるで呼吸をするかのように視線を上げ、レギアスは通信を開き、静かに令を下す。
その後、ふとリュードへ視線を移した。

「ここからは、この場の指揮を君に託す。任せたよ」
「……了解」

ナウシズの大隊は一気に、ファルスアームの押し寄せてくる「空間」へと斬り込んだ。
キャンプシップの上で戦う者、足場代わりに漂う瓦礫の上で奮闘する者。
投げ出され、弾き飛ばされ、瓦礫の中にその躯を漂わせる者も少なくなかった。

リュードはそれを静かに、ただ見据えていた。
ただの一瞬も、目を逸らさず。
自分達の為に命を散らしていく者達を一人も見逃さないように。
他の「攻撃部隊」の者達も、動揺するでもなく淡々と出撃に備えての準備をしている。

そして。
リュードの視界に「それ」が入った。

「―見えた」

全員の視線が、窓の外へ。
巨躯。
その体に何本もの腕を生やし、蠢く巨大な異形。
次第に近づいてくるエルダーに、全員の顔が一気に「アークス」へとシフトした。
ノイギーアと自ら名乗った表情のない女性キャストがキャンプシップの端末を操作する。

「慣性制御がまだ生きているアークスシップの残骸があります」
「了解した、そこへ接舷させてくれ。総員、フォトンシールドを『船外モード』に」
「了解」
「あいよー」

リュードの号令にそれぞれが「戦略OS」のモード変更を行っている間に、ゆっくりとキャンプシップは瓦礫に接舷する。
降り立ったその場所に、赤く染まった空間からの奇妙な照り返しが映る。

『…リュード、そして攻撃部隊のメンバー、聞こえるか』

全員がその声に顔を上げる。
ヘッドセットから聞こえる声は、ヒルダ。
背後から、各大隊の状況を知らせる他のオペレーターの声が止め処なく聞こえている。

『ダークファルス・エルダーはお前たちを確認してそちらに秒速8kmもの速度で近づいている。数分で接触するだろう。覚悟を決めろ』
「やはり、こちらに向かってきましたね」
「どれだけエルダーに好かれてるのやら」
「…どんな理由かは分からんが、餌の効果は絶大って所だな」

手持ちのファイアーアームズに弱化弾(ウィークバレット)を装填した女キャストのネオリアと、背中に白い羽を持つ銀雪とが目を合わせると。
無精髭の男―バートレットがリュードに皮肉交じりの視線を投げた。
それに気づいて、一度は視線を投げ返すが。
リュードは無表情のまま、近づいてくるエルダーへと向き直る。

『他の大隊の戦闘もあって、貴奴は体積が大幅に減少している。決して遅れを取る相手ではない』
「大幅に減少しててあれか」
「それでも、最初見た時よりずっとちっちゃいっスよ?」
「ま、面倒くせぇ事は他の連中が全部やってくれたって事でいいじゃねえか」

黒髪のコウヤと、女性キャストでありながらまるで男のシノブ、そしてカノエという少女がぶつくさと言い合う。
その隣でオッドアイの少女―クーを守るように、小柄なヒズミと赤い髪のゆきちが立った。

「あいつ たおせば おわり?」
「結局この子まで出撃する事になってしまったんですね…」
「いざとなったら私達でこの子を守ればいい」
「その子がここにいる理由を考えてみろ、お前たちのほうが守られるかもしれんぞ」

屈強な老人ダグラスがふふと笑うと、クーがこてりと首を傾げた。
全くもって動揺する様子が見えないメンツに、リュードは苦笑する。

「少なくとも、気後れしてる奴は居ない。大丈夫だ」
『了解した―通信終わる。…今までどおりに戦って、必ず生還しろ。必ずだぞ?』

通信が途絶え。
全員の目の前に、大いなる災いが覆いかぶさるようにして現れた。
黒い岩盤のような分厚い鎧を纏った「烏賊」のようにも見えて、滑稽ですらあった。
だが、その巨体から噴き出してくる「闇のフォトン」はビリビリとその場に居る者達の心を貫く。

「…始めよう」
「了解」

乗って来たキャンプシップが退避の為にその場を離れると。
全員が、武器を抜く。
リュードは、その「目」を隠すようにサイバーグラスを付けた。
闘争本能を剥き出しにした己の表情を見られたくなかったのかもしれない。
その口元は、僅かに笑っていた。




残骸を叩き壊すように、巨大な腕を何本も叩きつけてくる【巨躯】。
執拗に巨体を揺らすように攻撃してくるエルダーを巧みに避けながら、彼らは戦う。
しかしその巨大さ故、多少斬りつけた程度では怯みすらしない。
さらに振り回す腕の早さは思いの外早く、苦戦を強いられる。

「くっそ、デカブツのくせに素早い!!」
「あのクソウザイ腕へし折ってやろうぜ」

ダブルセイバーを振り回すのをやめ、シノブがラムダアリスティンを引きずりだした。
シノブとタイミングを合わせるようにコウヤがイクタチを叩き込むと、砕けるように一本の腕が千切れた。
それを見ていたクーがきょとんとしたように、身体が更に小さく見えるブリザックスを振り回す。

「まね する かんたん」
「なるほど、ああやればいいんだな」
「そうか、では真似させて貰うとしよう」

バートレットとダグラスが頷く。
その一方で、別の腕と一人で格闘していたリュードの肩をかすめ、弱体弾が撃ち込まれた。

「…!」
「さっさとその腕壊して―」

ネオリアが言う前に、リュードは既にオーバーエンドを振りかぶっていた。
頭で考えるより早く身体が動いた、そんな気がする。
タルナーダを軸にして生み出された巨大なフォトンの剣が、腕の一本を砕き落とす。
その様を見ていたヒズミが呆然となった。

「凄い…ウィークバレットがあったとはいえ、一人で腕を…」
「流石、伊達にレギアスさんに指名されてないって事っスよね!」
「よそ見してる場合じゃないよ!」
「!?」

ゆきちがヒズミとカノエを突き飛ばす。
と、今まで二人が居た場所に強烈な「張り手」が。

「た、助かりました」
「話は後、続けるよ」
「はいっス!」

矢継ぎ早に与えられる攻撃が、徐々にエルダーの腕の数を減らし。
行ける、そう思った時だった。

『…面白い…面白いぞ!烏合!!!』

劈くように、声がリュードの脳を突き抜けた。
思わず顔をしかめ、額に手をやる。
レギアスがただならぬリュードの様子に気づいた。
腕の攻撃を躱しながら、駆け寄ってくる。

「どうした?!」
「声が…」
「声?」

低くくぐもった笑い声が、リュードの脳を揺さぶる。

『―愚鈍、浅薄、脆弱、無為―弁えよ!!!我が名は【巨躯】!!!』

「なん…?!」
「腕が!!!」

僅かに距離をとったエルダーから、破壊したはずの「腕」が突如再生されたのだ。

「おいおい…冗談だろ」
「折角あそこまで減らしたのによ!」

口々に悪態をつく者達の中。
一人だけ、冷静に状況を分析していた者がいる。

「ダークファルス・エルダーの体積が40%ほど減少、腕を再生した影響で、相対的に縮小しています」
「本当ですか?」

手にしたフォシルトリクスを納めて傷ついた全員にレスタをかけながら、銀雪がノイギーアを見る。
ノイギーアは頷いて、ヤスミノコフ9000にフォトンを装填し直した。

「間違いありません、このまま攻撃を続ければ80%の確率で、ダークファルス・エルダーの巨体は消失します」
「ならばもうひと踏ん張りと行くか」

レギアスが「ヨノハテ」を構える。
が、リュードはまだ頭を抑えたまま。

「大丈夫か…?」
「…聞こえないのか…これが」
「?」
「何が…?」

他の者には聞こえていない、ガンガンと脳の中で打ち鳴らされるような声。
その声は時折、明確な「言葉」として彼の頭を揺さぶった。

『―我が眷属よ、ここへ』

その瞬間、全身が総毛立った。
身体と心がバラバラになるような感覚。
リュードは一歩、ふらりとエルダーの方へ踏み出してから、振り切るように頭を振る。

「ちょっと、ヒズミさん?!」
「クーちゃんまで…?!」

吐き気を覚えるようなその「声」の中であたりを見回すと、同じようにヒズミとクーが苦しんでいるのが見えた。
彼女達もまた、「闇フォトン」の影響を受ける「何か」を持つ者達なのだろう。
女性たちが二人に駆け寄る。

「どうなっちゃってるんスか?!」
「おいリーダー!どうするんだ?!」

答えられない。
エリにあの時中和して貰った筈なのに。
この「声」は、目の前の【巨躯】から発せられる言霊。
この距離で意識を保っていられるのが不思議な程、その場に漂う「声」に翻弄される。
そして、エルダーの「目」が紅く輝いた。

『―耐えてみせよ』

―!

「全員、伏せろ!!!!」
「?!」

そう叫ぶのが精一杯だった。
全員が反射的に転がるようにして伏せる。
直後、エルダーの紅く光る巨大な核から、その場をなぎ払うように強大な紅い閃光が発せられた。

「…!!!」

閃光が収まり、全員が顔を上げる。
その時立っていたのは、リュード一人。
いや、彼をめがけて、閃光は放たれたのだ。
タルナーダを盾に、辛うじて致命傷は避けた。
が、手足と肩は焼け焦げたように爛れ、タルナーダを持つのもやっと。
衝撃でサイバーグラスが弾け飛び、エルダーと同調するように紅く変色してしまった瞳が露わになった。

「…く…」

エルダーの笑い声が、心を蝕む。

『まだ立つか。我に牙剥く我が眷属よ。貴様はそこに居るべきではない。我の血肉、力となり、ヒトを滅ぼす者なのだ』
「…違う」
『何が違う?我との闘争、貴様とて楽しんでいたであろう?だがヒトである限りそれ以上の強さは望めぬ。この身の者とてそれを知り、我に委ねたのだ』

否定は出来ない。
戦いは、好きだ。
己の限界を超えて、剣を振るう事に喜びを見出す。
その相手が強ければ強いほど、その心は踊る。
戦いの相手の一挙手一投足すら巻き込んで、己の剣先の動きに没頭する。
しかし。

「俺は『ヒト』だ!人として、強くありたい!人間である事を捨てた貴様と一緒にするな!!!」

傍から見たら、一人で叫んでいるようにしか見えないだろう。
だが少なくとも、それが「エルダーに向けての言葉」だという事は、その場に居る全ての者達に理解出来た。
呆れたように、エルダーはその手を再び広げ。

『…もはや、言葉は届かぬか』
「愚問!!!」

吐き捨てるように叫んだ時だった。
す、とリュードの隣に立った者が居る。
名前の通り長い銀髪の少女が目を閉じ、その背中の羽を広げて。
オラクルの言語ではない「何か」を詠唱していた。
全員が訝しげにその様子を見た直後、両腕とその目を開き、ただ一言呟く。

「…退け、負闇」

真空中であるはずなのに、どん、と音がしたような気がした。

「おぉ?」
「すげぇ、フォトンが!」

レスタとも違う、何か大きな光の力場が、その場を取り巻くように広がっていく。
この為に「銀雪」はここにいた、そう思えるほどの「光の力」。
全員の傷が一気に癒えた。
リュードは即座にタルナーダを構え直し、叫ぶ。

「総員、攻撃再開!!」
「了解ー!」
「おう!」
「やってやるっス!!」

ふと見ると、ヒズミとクーが己を不安げに見。
力場を生み出した銀雪がふぅ、と大きな息をつく。

「話は後だ。今は奴を倒すことに専念しよう」
「はい」
「…ええ」

答えの代わりに、こくりとクーが頷く。
息を吹き返すように活動し始めた人間達に、リュードに届くエルダーの声が僅かに苛立っていた。

『思い知るがいい。―万象破砕のその力を!』

闇を纏った瓦礫?いや隕石か。
降り注ぐ隕石や瓦礫を避け、飛び退き、弾き飛ばし。
もう一度エルダーへと正対する者達。
誰一人、その目には恐怖など微塵もない。

『……刮目せよ!我こそはダークファルス・エルダー也!!!!』

まるでのしかかるように、その巨体を瓦礫の足場へと叩きつけて来る。
リュードは怒号を発した。

「回避!!!」
「りょーかいぃ!!!」

腕と違って、其の身そのものを使った鈍重な攻撃など、避けるのは容易かった。
逆に、そうやってのしかかって来た「本体」を削るように全員の攻撃が叩き込まれた。
再生された腕が次第に減り、質量が減り。

『…矮小なる者共が…』

その声がリュードの耳に届いた時。
タルナーダが、エルダーのコアを深く貫いていた。
その瞳の色が静かに深翠に戻る。

「俺は人のまま、強くなる。貴様には分からんだろうがな」

巨大なコアは闇の輝きを一気に失い、罅が走り、音もなく砕け散った。
【巨躯】を構成していた組成が自身を繋ぎ止めていたコアを失い。
ダークファルス・エルダーは自己崩壊を繰り返し、消えた。

直前に、崩れ落ちる躯体の中から消え去る人影が一人。
そして―人型の【巨躯】の背にあった禍々しい大剣を突き立てるように残して。

「やった…?!」
「そのままくたばってろ!バケモンめ!」

悪態をつく者も居れば、その場にへたり込んでしまう者、それを見て駆け寄り、声を掛け合う者。
良くも悪くも、生き延びることが出来たのは間違いない。
通信からもファルスアームが自壊した旨が次々に伝えられ、全員の顔がようやく綻んだ。
リュードはようやく大きく一つ息をして、タルナーダを収めようとしたが。
それは、まるで今まで耐えて来た生き物が息絶えるように―バラバラになってリュードの足元へ転がった。

「…無理させ過ぎたからな…すまない」

誰ともなくそうつぶやき、リュードはタルナーダだった鉄の残骸を見つめる。
レギアスが歩み寄り、笑ったように見えた。

「作戦は成功。…武器が身代わりになってくれたな」
「ええ、そのようです」
「私からもジグに新しい武器を作るように伝えておくよ、今回の礼だと思ってくれ」

新しい武器。
勝利と引き換えに、今までその手に馴染んだタルナーダを失ったのは大きな痛手でもあったが。
リュードはふと、視線の先にある「それ」を見た。

「いいえ、『あれ』を
「…何と…!?」

そこにあったのは、瓦礫に墓標のように突き立っていた弓のようにきつく弧を描いた、闇の大剣。
黒い鱗が禍々しくその刀身を覆い、それ自身から闇のフォトンが滲み出るような得物だった。

「あれを、使うというのか?」
「…勿論あのままでは無理でしょうが…ジグ師ならあるいは」

恐らく、それは「ゲッテムハルト」であったエルダーの「意思」。
きっと【巨躯】は再び現れる。
そして「それ」でなければ、ダークファルス・エルダーに「とどめ」がさせない事を、其の身が教えていた。
ふー、と溜息をつき、レギアスは頷いた。

「なるほど…ならば、あれはあのままジグの工房へ転送しよう。今のまま君が触れたら、きっと『餐まれて』しまうだろうからな」
「…よろしくお願いします」

その場所ごと切り取るように、レギアスが「大剣」を転送させた時。
不意に、身体が浮き上がるような感覚を憶えた。
周りを見ると、他の者達全員が瓦礫から次第に浮き上がりつつある。

「えーーー!!!」
「うわああああ、重力が?!」
「足場になってたシップのフォトンジェネレータが死んだみたいだな」
「ちょ、ちょっと!!」

じたばたともがく数名をよそに、唐突に通信が飛び込む。

『はいはーい、メリッタです!皆さんお疲れ様でした!今から回収しますねー!!!』

相変わらずマイペースのメリッタが、直々に迎えに来たようだ。
あまりの脳天気ぶりに、シノブが思わず声を荒げる。

「おっせぇよ!!!投げ出されるとこだったんだぞ!」
『お、遅かったですか!?でも危なかったですし近寄れませんでしたし…!』
「いいから早く回収してくれ、もう慣性制御効いてない」
『はいー!!!』

ようやく辿り着いたキャンプシップから、回収用の誘導レーザーワイヤーが放出される。
それに引きずられるように、全員がキャンプシップへと収容された。




ダーカーの気配が漂ったままのその足場に。
ふと、人の姿に戻った「エルダー」が降り立つ。

『我を、押し返したか…』

虚空に響き渡る高笑いを上げて。

『かの惑星で我を押しとどめた者…そして今……楽しいぞアークスよ!それでこそ戻ってきた甲斐がある!!』

無事なアークスシップへと引き上げていく、己を倒した者達の乗るキャンプシップを見。
心の底から、笑い続ける。

『ようやく戻って来たと思ったら、いきなりやられちゃった上に大喜び?四十年眠ってた間におかしくなっちゃったの?』

その背後に唐突に、女性が一人現れた。
エルダーと同じように闇の衣を身に纏う女。
巨躯はゆっくりと振り返り、眉を顰めた。

『…誰だ、貴様は?』
『ほんと、酷いわね。復活の手助けをしてあげたっていうのに』
『―そうか、貴様【若人】(アプレンティス)か』

呆れたように、アプレンティスは肩をすくめた。
一見、普通の女性のように見える。
が、紛れも無くその身体から迸るフォトンは「闇」そのもの。

『新しい容れ物を手に入れたのだな?』
『そういう事。もっとも十年は経ってるけどね』

引き寄せられるように、更に別の気配が降り立つ。

『…そちらの気に食わん二人組は【双子】(ダブル)だな?』
『おかえり、エルダー』
『おかえり、巨躯』

名前のとおり、瓜二つの姿をした少女と、少年。
だがやはり、闇の衣を身につけて無邪気に笑っている。
エルダーは口元を歪めて更に笑った。

『揃いも揃って我を出迎えとは、感謝感激痛み入る。―だが…ソイツは、誰だ?』

エルダーの赤い瞳が、不意に不快を露わにする。
音もなく、アプレンティスの隣に立ったのは―仮面の男。
勿論、顔も見せず、言葉も発さない。
アプレンティスはふぅ、とため息を付いた。

『新参の子。とりあえずあたしは【仮面】(ペルソナ)って呼んでるけど』

言葉を待たず、仮面は背を向け姿を消した。
まるで「顔さえ見られれば用はない」と言わんばかりの態度だった。
其の様子に、アプレンティスはもう一度呆れたように両手を広げる。

『あたしが言うのもなんだけど、最近の若い子が考えてることはわかんないわ』
『奴が何であれ、我を楽しませてくれるなら一向に構わん』

含み笑いをするエルダーに、アプレンティスは眉を顰めた。

『…なにその気持ち悪い笑い方?あんた…随分変わったわね』
『それこそ貴様には言われたくないな』

答えの代わりに、アプレンティスは鼻で笑い。
闇フォトンと共に姿を消した。
エルダーが気付くと、ダブルまでもが消えている。
本当に、復活したエルダーを見に来ただけ、としか思えなかったが。
それすら、意に介さないとばかりにエルダーは再び笑い、アークスシップを見やる。

「諸兄らの検討を称え、今回は退いてやろう。自在に動くこの身があれば、いつ如何なる時であっても闘争は可能…そうだな?我が眷属よ…』

それは、リュードへ向けての言葉。
そして【巨躯】を退けたアークス全てへの言葉。
地の底に響くような笑いを残し、エルダーもまた、消えた。

静寂が漂い。
全てが終わったかのように思えた其の場所に。
細身の男が不意に降り立った。

「…ふふふ…復活したんだね…」

青白い髪と、白と黒のスーツ。
その左目に涙のような青い刺青―いや傷だろうか―を持つニューマン、のようにも見えるが。
気配は到底「ヒト」ならざるもの。

「これが『君』の思惑どおりの事なのか、それとも単なる成り行きなのか…僕には分からないけれど。
 僕の友人が創った『彼』がエルダーを倒したというなら…僕もそろそろ動かなくちゃいけないようだ。ふふ」

誰もいない虚空に、まるで語りかけるように。
歪んだ笑みを浮かべて、呟き続ける。

「『君』がこれからどんな事を『彼』に押し付けるのか、楽しみだよ…シオン」

男が姿を消し、卑屈な笑いだけがその場に残された。



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