PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(10)

もーいーくつねーるーとーおーしょーうーがー2(憤死)



この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
PSO2二次創作小説「Black Dream」~黒い夢~

PSO2二次創作小説「時の輪」(Ep1該当)

PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2該当)
プロローグ
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
(10)



自分達の本来の時間に戻った時、遺跡で待っていた彼はその無事をとても喜んだ。
ゼノが事象改変された現在、マリアの下で厳しい鍛錬を続けている事も伝えられた。
そうして、キャンプシップを経てナウシズへ戻り。
装備品の補充をするために、ショップエリアへと入った時に。
シャオの時とは全く違う、時間と空間を切り分けられたような感覚に陥る。
色を失った世界にただ一人佇むのは。

「…シオン」

リュードに名を呼ばれ、沈黙を保っていたシオンがようやくその目を開く。
だが、そうしても尚まだ言葉を発しようとはしない。
訝しげにエリが一歩踏み出し。

「どうしたの…?」
『彼女が、目覚めた』

ようやく語り始めたシオンの言葉と同時に。
一瞬、その切り取られた世界が乱れた。

「…ここにいたんだ」

背後から、唐突に少女の声がした。
二人は振り返り、その姿に驚愕する。

「マトイちゃん!?」

エリは思わずかけより、マトイの前に膝を落としてその瞳を見る。
困ったようにエリを見てから、リュードに視線を投げるマトイ。

マトイは、ずっとメディカルセンターに居た。
ナベリウスで救助されてから、ずっと。
何度か見舞いに行ったのだが、その度に告げられる「彼女は今眠っている」という看護師達からの言葉。
事実、起きていても夢遊病のようにフラつき、言葉は要領を得ない状態で外に出すことも出来なかったらしい。

「起きた…のか」

ダークファルス・エルダーが復活した時も、彼女は姿を見せなかった。
リュードが知っているのは「あの時」彼女自身に告げられた「作られた存在」だという事だけ。
しかし。

「驚かせちゃった、かな」

リュードとエリの前に立ち苦笑するマトイは、かつてリュードを導いたマトイとはまるで表情が違っている。
記憶が無いままなのか。
苦笑したまま、マトイはリュードとエリを交互に見る。

「ずっと、声は聞こえてたよ。リュードと、エリアルドの声。でも起きたかったのに起きられなかった。まだ起きちゃいけないって…その人の声が聞こえたから」

その人?
マトイの視線の先には、シオンが佇む。

「…誰も居ないわよ?」

エリは困惑して、そんな言葉を口にする。
この空間にあっさりと入りこんだ上、シオンが見えている?
まるで、ルーサーのように。

「…うん、えっと…見えちゃいけない人、だった?」

シオンは一度目を閉じ。
それからもう一度、マトイを見る。

『彼女が私を認識できることは問題ない。貴方達と同じように彼女もわたしとの縁(えにし)を持つ存在。わたしが見えるのも当然だ』

縁?
マトイを「創った」のは、シオン?
ならば何故、記憶が無い状態のまま、眠らせていた…?
マトイはゆっくりと、その表情を綻ばせながらシオンの方へ。

「何だろ…初めて会う筈なのに、懐かしい…」
『今はまだ、考えなくていい。いずれ、導かれる』
「そうなの…?でも貴女がそういうなら、そうなんだよね、きっと」

何の疑いもなく、マトイはシオンへの信頼を口にする。
初めて、シオンは僅かに驚きの表情を浮かべた。

『また、私を信じてくれるか?……まだ、わたしを信じてくれるのか?』
「…信じるよ?だって、リュードとエリアルドが信じているんだもの。そうでしょ?」

屈託のない笑顔で、マトイは振り返る。
良くも悪くも、純粋すぎる。
リュードは僅かに目を細めた。
自分はシオンを信じているわけではない。
他に選択肢が無い、それだけ。
答えられないリュードの代わりに、エリが笑った。

「私たちには、信じるしか道がないのだもの」
『彼女を救ってくれた事を、私は、私達は感謝する。だからこそ今がある。その行為は時を経て、未来を繋ぐ鍵となる』

ほんの僅か、シオンは笑った。表情が無かった、知らなかったはずのシオンが。
マトイが目覚めたからなのか。

『後は、かの創世器のみ―…だがそんなことよりも、今は貴方達に感謝する。彼女を、救ってくれた事を』

そして、笑顔が―凍った。
マトイがその僅かな変化に気付いた。

「シオン、さん?」

エリにはそれが、苦しんでいるように見えて。
思わず立ち上がり手を伸ばしかけてから、その手を引いた。

『私は、時に思う。何もせずに、流れのままに任せたほうが良かったのではないかと』

その視線は、はっきりとリュードを見ていた。
後悔と懺悔と哀しみの瞳で。

『貴方達や彼女に苦渋を強いるこの行為の意味は何なのか。原初の邂逅まで遡り、全てを無かった事にするのが最良では無いのか』
「無かったことにする…だと?」

自分やエリの存在を?
オラクルやアークスの存在を?
その言葉の意味に、リュードの表情に怒りがはっきりと浮かぶ。
それをはっきりと見て、シオンはもう一度目を閉じた。

『少し、昔話をしよう…。おろかな『もの』と、おろかな『ひと』の話だ』
「…おろかなものと、おろかなひと…」

エリの言葉に呼応するように、切り取られた空間の景色が一変した。
それは、宇宙。
ただ果てしなく暗い、黒い闇の中。
彼らの目に写った、水色の美しい惑星。



『全てを識っている存在だった『もの』と
 全てに興味を持つ存在だった『ひと』が出会ってしまったことが、始まりだ。

 『もの』は、『ひと』の望むがままに知恵と知識を与えた。
 それは『もの』にとっては些末な知識であったが
 『ひと』はそれを礎に進化を遂げた。

 『ひと』は『もの』の好奇心を刺激した。
 全てを識ってなお、理解できない『ひと』の心に、『もの』は惹かれた。

 そうして、『もの』と『ひと』は隣人となった。

 相互に望む物を与え続ける存在として長い永い繁栄を続けていた。

 『ひと』は貪欲でありながら怠惰だ。
 楽をするために、全ての力を注ぐ。
 ありとあらゆる知恵を絞りつくす。
 その思考の動きはユニークであり観るには楽しくもある、が……
 甘く観すぎた。

 その怠惰が作りあげた物がやがて崩壊をまねくと識りながら『もの』は、『ひと』に伝えなかった。
 その結果が『ひと』をどう変えるか、それを観たいと思ったがために……』



漠然としすぎていて、理解するのが容易では無かったが。
その「もの」という存在を表すのがシオンであることだけは分かった。
そして「ひと」を表すのは―

シオンが小さく首をふると、彼らはいつの間にか元のロビーへと戻されていた。

『おろかなのは『ひと』ではない。識りながらそれを伝えなかったわたしこそが、おろかなのだ』
「シオンさん…」

マトイがいつの間にか、シオンへ寄り添うように立っている。
それに気付いて、シオンはふと頷いた。

『……心配はいらない。出会ったことは、嬉しいこと。それはかけがえのないこと。全てを無かった事になど、出来はしない』
「うん。でなきゃ今こうしてシオンさんやリュードやエリアルドと話すこともできなかったよ?」
「そうね、私がリュードに出会う事も無かった」

マトイとエリが頷きあい、笑顔を見せると。

『かつての人たちはこう言っていた。「未来はわからないから楽しい」と。―わたしも今ならば、そう思う。だから…』

シオンはマトイからゆっくりと離れ、もう一度僅かに笑みを見せる。

『私は貴方達に願う。まもなく訪れる時を、乗り越えて欲しい』
「乗り越える?」

小さく頷いて。
シオンはエリへと視線を投げた。

『だから今はまだ、休んで欲しい。エリアルド、マトイを頼む』
「…私?」

言った側から。
マトイの身体が、ぐらりと揺れた。

「あ…れ?」
「マトイちゃん!!!」

慌てて、エリが支える。
マトイは困惑した顔で、エリを見た。

「おかしいな…そんなに疲れてないと思うんだけど…」
「ずっと寝てたのよ、体力が戻ってないんだわ」
「そ、そっか…じゃあ、もっと体力付けなきゃね…」

支えられながら、えへへ、とマトイは笑う。
エリはマトイを支えながら、リュードへ視線を投げる。

「私、先にメディカルセンターへ行くわ」
「頼んだ」

リュードが頷くのが早いか、二人の姿が掻き消える。
きっと本来の空間へシフトしたのだろう。
そこに残されたのは、リュードのみ。

『貴方だけに、伝える事がある』

先程まで浮かんでいた笑みが消え。
再び温度のない瞳が、リュードを見据える。
リュードはシオンに正対した。

「奴の、事か?」
『……』

ダークファルス【仮面(ペルソナ)】。
顔を隠し、事あるごとに己の前に立ちはだかり。
常に自分を狙い続けてきたあの「人ならざる存在」。
過去で見たその顔は。

「あれは…俺なのか?」

他の者達の手前、必死に動揺を押し隠して来た。
だが、あの顔は忘れようがない。

なにせ、自分なのだから。

『貴方であって貴方では無い存在。それが彼だ』
「俺のクローン…?いや、違うな。俺自身がクローンなのだから…俺以外の、俺と同じ遺伝子を持ったクローン、そう言うべきだろうか」

思い当たる事はただ一つ。
自分自身の存在が「クローン」だと言うこと。
他に、同じ遺伝子を使って生み出された存在が居た所で不思議ではない。
だが不可解なこともある。
眉間の傷。
あれは、10年前に「己」がエリによって付けられた傷だからだ。
それを持つクローンを、研究部が10年の間に生み出したのだろうか。
しかしそれならば、目的は達成されているはず。
あの自分は「ダークファルス」として行動しているのだから。
必死に考えを巡らせるリュードに対して、シオンは僅かに目を細めた。

『今はまだ答えられない。だがあれは間違いなく「貴方」だった存在』
「俺を狙うのは何故だ?俺に成り代わるつもりなのか?」
『違う。彼は刻(とき)に囚われ、逃れられなくなった貴方自身なのだから』
「…?」

刻に囚われた俺自身?
いくら考えても分からない。
混乱している自分を理解しているかのように、シオンは力なく目を閉じる。

『私が貴方を選んだ理由…それは、貴方自身が持つ「力」。私はそれを少しだけ助けているに過ぎない』
「俺が持つ力…?」
『だからこそ彼が生まれてしまった。だから私は、私達は貴方に全てを託したのだ』
「教えてくれ…俺の力とは、何なんだ」

ずっと、疑問だった。
何故シオンが自分を選んだのか。
研究部の実験体だった自分。そのせいでD因子を内包し、暴走し、数多の命を消した。
そんな自分が「オラクルを救う」などと、痴がましい行動をしているこの矛盾。
シオンはただ、そこに佇んでいた。

『…それは、貴方自身から知らされる事だろう』
「俺自身…つまり、仮面から聞き出せ、そういう事なんだな」
『だからこそ私は謝罪する。私の過ちを貴方に背負わせることを』

何故だろう。
シオンが泣いているように、見えた。
そのまま、再びロビーの喧騒へ放り出される。
リュードは立ち尽くし、シオンが居た場所をただ見据えていた。





数日後。
一つのニュースがオラクル全体に知らされた。
「新しい惑星の発見」と、大々的に見出しが付いたニュースであった。
今までとは別の恒星系にあったその惑星は、とても美しい水の惑星。
惑星の名前はウォパルと名付けられ、新たな探索が始まった。

「…でも、やっぱりダーカーは存在してるみたい」

残念そうに、エリが端末に表示されたデータを見てため息を付いた。

「お前、何を期待してるんだ」
「だって海よ?見れば分かるでしょ?水の成分も、塩分濃度が濃いだけで私達の飲料水に出来るって調査結果が上がってきてるもの」

目の前には何処までも続く青い海、大地とそれを繋ぐ美しく白い砂浜があった。
大きな太陽がギラギラと輝き、スーツの温度調整があっても温度の高さははっきりと分かる。

「バーチャルじゃない、本物の海水浴とか出来るチャンスよ?」
「…お前な」
「だから、私達がさっさとダーカー倒して、リゾート出来るようにすればいいのよ」
「気楽に言うなぁ…」

確かに、とてもその景色は美しかった。
だが、気がかりな事もある。
遠景にある「構造物」が、この星に「文明」があったことを示している。
まだ定かではないが、地下にも何か構造物があるらしい。
その文明の主はもはや存在していないようだが、原生生物は例に漏れず凶暴化しているとの先遣隊の報告があった。
自転の周期も恐ろしく早く、6時間程の周期で昼と夜が繰り返されている。

「うわー!なにここ!!すごい!!!」

背後のテレパイプから、甲高い声が飛んできた。
二人が振り返ると、そこにソードを背負ったエコーが。

「…遅い」

相変わらずの遅刻癖に、リュードが眉をひそめると。
エコーは慌てて踵を揃えて敬礼する。

「すいません!遅れました!」
「…先が思いやられるな、訓練じゃないんだぞ?」

そう、ウォパルに降りたのは「識別不明の救難信号の調査」という任務があったからだ。
比較的目的地がはっきりしていて、さほど苦労はしないだろうという判断からエコーを同行させる事にしたのだが。

「だから、早く終わらせてこの景色を楽しみましょ?」
「はーい!」
「やれやれ…」

遅れてきた事など何処へやら、エコーとエリで意気投合し、砂浜を二人して歩き始めた。
補佐するように、リュードが後ろを付いて行く。
案の定、原生生物に混じって小型のダーカーが湧きだした。

「…変ね、ここのダーカー、見た事が無いタイプだわ」
「飛行型ばかりだな…小型だが群れている」
「ちょっと、やだ!纏わり付かないでよ!!!」

冷静に分析する二人の傍らで、出鱈目にソードを振り回すエコーが居た。
エリはロッドを構え、冷気のフォトンを辺り一面に撒き散らすようにして広範囲のエネミーを凍りつかせ。
エコーの周りに飛び回っている鳥のようなダーカーを、リュードはエルダーペインの「平面」を打ち付けるようにして叩き落とした。

「…た、助かった…」
「こういう群れはソードには苦手分野だ、線ではなく面攻撃を意識しろ。無理ならそれが得意なクラスに任せるのもありだ」
「な、なるほど…書いとかないと…」

振り回していたソードをどすっと地面に突き刺し、そのまま端末を開いてメモを取り始めるエコー。
その直後。

「…危ないやないか!!!おいこら何さらすんじゃ!!!」

妙に訛りの強い喋り方で叫ぶ声がする。
3人は顔を見合わせた。

「…え、今の誰?」
「さあ?」
「誰か居るのか…?」

あたりを見回すが、それらしい人物は見当たらない。
だがしかし。

「何処見とんのや!下や!した!!!」

下?
三人が同時に足元を見ると、エコーが刺したソードのすぐ脇に大きな原生生物の貝殻のようなものがあった。
それが、もそっと動いて。

「たく、声がしてたと思たら全然別の奴らやし。突然武器突き刺してくるし、かなわんわ」
「え?」

声の主は、どうやらこの一抱えもあるような巻き貝のような生物。
ひょこりと軟体生物のような胴体が、巻き貝を持ち上げるように伸びる。

「うわぁあああああああああああ?!??!」

エコーは素っ頓狂な声を上げてソードを引き抜いて飛び退き、その生物に向かって振り回した。

「ってうわっ!あぶなっ!!やめ!落ち着け、落ち着けやねーちゃん!!!オレは敵やない!!敵やないって!!!」

原生生物は慌てて転がるように逃げまわり、再び殻の中に手足を引っ込める。
エリがその様子に、エコーの前へ立った。

「エコー!ちょっとやめて!」
「エリアルドどいて!そいつやらないと!!!」

エリが割って入るのと同時に、リュードがエコーのソードをエルダーペインの峰で受け止めた。

「状況を見ろ、相手が攻撃して来てるか?」
「え…でも…」
「いいから剣を収めろ」
「…うー…」

有無を言わさぬ迫力に、エコーはしぶしぶとソードを背中に収める。
それを確認して、リュードもようやくその背にペインを収納した。
殻に付いた目が、そーっと開く。

「…はー、助かったわー。おっそろしいねーちゃんから助けてくれておおきに」

その言葉に、エコーの目がつり上がった。

「何が恐ろしいよ!キモい姿してるくせに!」
「そない言うな!オレからしてみればそっちのカッコの方がキモイわ!」

すっくと立ち上がるその姿は、タコやイカに巻き貝を被せたような。
半ば喧嘩腰にずかずかと歩み寄り、しゃべる原生生物にエコーは後ずさりする。

「ちょっと、ヌメってて気持ち悪い!近寄らないでよ!」
「…エコー、いくらなんでも酷くない?」

拒絶反応も甚だしいエコーに、エリが苦笑すると。
原生生物が同調するように大げさに頷いた。

「そうや!他人様の特徴を悪く言うなって習って来なかったんか!少しはそっちのねーさん見習え!」
「だって気持ち悪いものは気持ち悪いのよ!」
「いい加減にしろ、静かに出来んのか」
「…ハイ」

この上ないトゲのあるリュードの言葉。
エコーは途端に小さくなってしまう。
ようやくおとなしくなったエコーに、まるで両手を腰に当てるようなしぐさをする小さな生物。

「全く、人探ししてただけやのに。えらい失礼なのにぶち当たったわ」
「…人探し?」

エリが原生生物と視線を合わせるようにしゃがみ込むと、その生物はエリに向き直る。

「せや、おたくらも見とらんか?オレに良う似たべっぴんさんを」
「…あんたみたいにキモイのは初めて見たけど?」
「だからキモい言うなや!」

変な嫌味を言い続けるエコーに流石のエリも少し怒ったようで、おかしな笑みを浮かべてエコーを睨んだ。

「エコー、ちょっと黙ってて?」
「ハイ」

更に小さくなったエコーを確認してから、エリはもう一度原生生物と視線を合わせる。

「私はエリアルド、こっちはリュード。そっちのうるさいのがエコー。貴方は?」
「うるさいのとか酷い…」
「オレはカブラカンや。元々ここに住んどるんやで」

カブラカンと名乗った、飄々とした身振り手振りで喋り続ける生物。
ふと、そのやり取りを聞いたリュードが腕組みをして眉間にシワを寄せた。

「…元々…?ならば、何故俺達の言葉を喋ってる?俺達はつい最近この星に降りてきたんだぞ?」
「そんなん知るわけ無いやろ。オレらは昔からこうやって喋ってた。昔っからや」
「そうなの?」
「うーん、じーさんばーさんなら何か知っとったかもしれんけど…」
「居るんじゃない、そういう事情分かる人紹介してよね?」

三度口を挟んできたエコーを、カブラカンは呆れたように見上げる。

「そんな事言うてもな、もうどっこにもおらんから紹介のしようもないわ」
「…え?」
「動きの鈍ったモンからやられる。そういうもんやろ?」

悲観するでもなく、あっさりとカブラカンはそう言って笑った。
管理されたオラクルではあまり感じる事は無いが、弱肉強食は生物の世界では至極当たり前のこと。
それは人間とて変わらない。アークスも例外なく弱い者から倒れていく。
小さな身体でそれを理解している目の前の原生生物に、リュードは視線を落とす。

「…その通りだな」
「にーさんは話が分かる人やな」

冷静にそう呟くリュードを、カブラカンはふと見上げて来た。
エリはしゃがんだまま、端末を操作しつつカブラカンを見続ける。
観察も兼ねているのだろう。

「それにしても、良く私たちに声かける気になったわね?怖いとか思わなかったの?」
「確かに、俺達はお前たちにとっては異星人になる訳だしな」
「話が通じる分あんたらの方がずっとマシやで。もっと冗談みたいなやつらがごっそり現れとるからな」
「…ダーカーか。それは最近の事か?」
「ダーカー言うんか、あいつら。あいつらが出てくるようになってから皆暴れ始めてな」
「皆?他の原生生物の事?」
「そうや。喋れん奴ら、元は大人しい奴らばっかりやった。でもオレみたいに喋れる連中の中にも、おかしくなった奴もおって…そいつら皆喋れんようになってしもうた。ホンマ迷惑。だからオレら、今は隠れて暮らしとるんやけど…」

迷惑で済む話ではないのだが。
ダーカーの侵食は、この惑星でも進んでいる。
辺りを見回すように、カブラカンは首を振った。

「オレの大事な嫁のカマロッツが居なくなってもうてな…あいつらにやられとるんやないかと心配で心配で探しとったんや」
「探してるのってあんたの奥さん!?奥さんいたの!?」
「居て悪いか!物凄いべっぴんさんなんやで!!!」

エコーとのやりとりはもはや漫才のよう。
カブラカンは大きくため息を付いて、もう一度リュードに向き直る。

「とにかく、オレはカマロッツ探しに戻るわ。見かけたら家に戻るように言うといてくれんか。頼むわ」

そうして少し手(?)を上げ、背を向けて歩き始めるカブラカンを見て。
エリは思い出したように立ち上がる。

「そうだ、私達も一緒に探してあげるってのはどう?」
「ホンマか?」

言うと思った。
たとえ原生生物とは言え、エリは困っている者を放っておけない性格。
リュードは苦笑して、小さく溜息をつく。

「俺は構わんよ、救難信号の探索任務もある」
「ええええええええええええ?!」

至って普通に答えるリュードに対し、エコーはあからさまに嫌な顔をする。
エリはエコーを見て、にっこりと微笑んだ。

「嫌なら帰ってもいいのよ?その代わり、もう一緒に探索してあげないけど」
「…分かった!分かったわよ!行けばいいんでしょ行けば!!!」
「にーさんねーさんはともかく、そっちのねーちゃんは別にええねんけどな。頼りにならなさそうだし」

そのカブラカンの言葉が、エコーの逆鱗に触れたらしい。

「なんですってぇぇえええ?」

エコーは唐突に、ソードをもう一度カブラカンの目の前に突き立てた。
紙一重で、カブラカンはそれを避ける。

「ちょ…またあぶなっ…」
「決めたわ。あたしあんたの奥さんが見つかるまでずっと付き合ったげる」
「はぁあああ?」

今度はカブラカンが素っ頓狂な声を上げる番だった。
半ば自棄糞の開き直り。

「リュードさんとエリアルドは救難信号の探索続けて?こっちはあたしがやるわ」
「大丈夫なのか?」
「…何や、不安しかないねんけど…」
「だ・い・じ・ょ・う・ぶ!!!」

こめかみに血管が浮き出る勢いで、怒りの形相をカブラカンに突きつけて笑うエコー。
物凄い剣幕に、カブラカンは言葉も出ない。
これはもう、止められそうにないな。
ふと気付くと、エリが呆れながらもくすくすと笑っていた。

「くれぐれも無理しない事、何かあったらすぐ連絡を回すこと。いいわねエコー?」
「分かってるわよ、そっちもしっかりね?」
「やれやれ…分かったよ。こっちでもそれらしい生き物を見つけたら連絡する」
「はー、しゃーない、分かれた方が見つかるやろうし…にーさん達頼むわー」
「了解した」

そんな喧騒があった後、彼らは二手に別れて探索を始めた。
既に、ウォパルの日が傾き始めていた頃であった。

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