PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(14)

今回ちょい長。難産だった。


この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
「Black Dream」~黒い夢~(~Ep1前まで)
「時の輪」(Ep1該当)

現在執筆中。
PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2~3該当)
プロローグ
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
(11) (12) (13)
 
 
(14)


帰還出来たのは良しとしよう。
だが、その後が酷かった。
「拉致」されてから一日はあの場所で彷徨っていた為に、常人では瞬く間に侵食されてしまう程身に付けた物全てが汚染されていた。
キャンプシップはほぼ隔離状態でメディカルセンターに直通にされ、丸一日監禁状態。
検査を担当する者達も対ダーカー因子用の重装備、「万が一」の為にアークスらしき人間まで見えた。
今まで似たような状況に陥って生きて戻ってきた者は居ない―つまり自分達にダーカークローンの嫌疑が掛けられていたからだ。
持っていた装備品も全て洗浄、自身も高濃度のフォトンが満たされた浄化カプセルの中に閉じ込められ、調査検査で明け暮れた。
メルランディアも同じような状態だろう。むしろ「エルダー復活の容疑者」である為、もっと厳しい状況になっているかもしれない。

ようやくその疑いが晴れ、カプセルから開放されて私服に着替えた途端に、別室での尋問を言い渡される。
テーブルを挟んで椅子が二つ向かい合わせて据えられただけの殺風景な部屋。
どかっとリュードが座ると、程なく思いがけない人物が現れた。

「ご無沙汰しております」
「…お前さんだったのか」

六芒均衡の三であるカスラが、ゆっくりと向かい合わせの椅子へ座り、端末からホログラムモニターを表示する。
六芒自らがこうして尋問に訪れるという事自体が、自分が遭遇した事件の異常さを表していた。
左肩の包帯が僅かに首元から見えているのが気になるのか、カスラは難しい顔をして簡易端末のホログラムモニター越しにリュードを見ている。
エルダーペインの能力と、メルランディアのレスタで痛みは殆ど無いとは云え、「侵食された戦闘機からの銃撃」の証拠としてそのままにされた傷。

「申し訳ありません、それも証拠となりうるものですので」
「気にするな、すぐ治るさ」

僅かに頷き、カスラはデータを読み始める。

「お二人の調書を拝見しました。貴方の懸念も伺っています」
「ならば話は早いな」
「幸い、貴方がたのクローンは現状では確認されていません」
「良かった。あれが外に出ていたかも知れないと思うとゾッとする」

戻る事が出来てただ一つ気がかりだった事。
己自身のダーカークローンが他のアークスに危害を加えていた可能性があったから。
下手をすれば、エリにその手が及ぶかもしれない。

「生成されるクローンは一体ではない、それは間違い無いのですね?」
「ああ、最初のうちはただ形を真似たような赤黒い人形だったが、倒せば倒すだけ、時間経過と共に徐々に自分により近い姿になった物が出現していた」

カスラはデータとリュードの顔を交互に見比べ、眉間にしわを寄せた。

「貴方がたの情報提供で、今まで不鮮明だったダーカークローンの生成形態がはっきりしたのは良いのですが…」
「何か問題が?」
「巣に引きずり込まれたアークスは、内部で戦闘データを取られた挙句殺されて模倣体を生成されている」
「…そういう事になるな」
「その割には技術はまだ低く、すぐに模倣体と分かる状態です」

何の為に。
何故、わざわざアークスを捕らえてまでクローンを生み出すのか。
ダーカーが実験をしているとでも言うのか?
今までダーカーに「意思」を感じる事は無かった―ダークファルスを除いて。
何か、別の意図のようなものを感じる。

「とは言えど事は全アークスに及びます。早急に対処を考えねばなりませんね」
「そうだな…キャンプシップで移動する度にあんな事になるようじゃやってられん」
「貴方がたが生還出来たのは奇跡…いや、貴方だからこそ生還出来たのでしょうか」

じっと、カスラはリュードの目を見据える。
疑うようでいて、その上で何かを期待するような視線。
リュードは真意を測るように、その目を真っ直ぐに見返した。

「…お前さん達が俺に何を望もうと、俺はただのアークスだ。それは変わらんよ」
「それは謙遜ですか?それとも…我々を『敵』と認識しての隠匿でしょうか」
「敵?」

挑発するような、試すような物言い。
リュードは剣呑な眼差しでカスラを見る。

「アークスの敵はダーカー。そうだろう?」
「そうですね。…でも、以前も言いました。貴方は『目立ちすぎる』のです」
「…好きで目立とうとしてる訳じゃない」
「解っています。貴方に『そうなるように仕向けている存在』が居る。それを危惧しているのです」

目立たせようとしているのは、お前と同じ六芒のレギアスだ。
そう言おうとして、リュードは口を噤んだ。
レギアスの行動であれば、カスラが知らぬ筈はない。
そうであれば、間違いなく彼やレギアスがルーサーと通じる存在である事を示す。
途端に、リュードから表情が消えた。
カスラはそれに気付いて、哀しく笑みを浮かべる。

「貴方はそうして感情を消し、心を隠して生き延びてきたのですね」
「…」

口を、心を閉ざしたリュード。
その態度に、カスラはふと視線を床に落とした。

「分かります。私もそうですから」
「…?」
「ご心配なさらず。ここにはルーサーの目はありませんよ。私が来ていますからね」
「どういう意味だ」

自虐するような笑い方だった。

「お察しの通り、私はルーサーの手足となって動いています。―今は」
「…今は?」
「そうせざるを得ない状況なのですよ、今のアークスは、ね…」
「それをどうにかするのが六芒の役目だと思ってたんだがな」

その言葉は実質、ルーサーがアークスを掌握している事に他ならなかった。
更に言えば、六芒均衡そのものがルーサーの傀儡である可能性も。
しかし何故今自分にその事を話す?
リュードがようやく表情を見せ始めたのに気付いて、カスラは笑みを浮かべた。

「―六芒均衡という名前には、意味があります」
「?」
「奇数番(オッドナンバー)に三英雄である我々が据えられ、偶数番(イーブンナンバー)にその『対存在』としての力を持つ者を据える。そうして『均衡』を保つ」
「偶数番…?」
「貴方に情報を与えた存在。貴方を助ける存在を私は知っています。私は、だからこそ貴方に潰れて欲しくない。貴方に期待すると言った言葉は嘘ではありません」

己に接触してきた六芒の二のマリアと、その弟子とも言えるサラが脳裏を過ぎった。
四は欠番だと聞いているが、ヒューイもそう言えば六であったはず。
それを知っていてあえて野放しにしている意味。
六芒均衡を―いや、自分を含めた三英雄を止めろとでも言いたげな。
カスラはそのサイバーグラスを外してリュードに向き直った。

「貴方には、ルーサーと戦って貰わねばならないのですから」

笑みは無かった。その目には嘘は無かった。
絶望の中にある切望。
カスラもまた、茨の真っ只中に囚われて身動きが取れずに居る存在なのか。
それ程までにルーサーの力は大きいのか。

「…なるほど、情報をルーサーに渡さない代わりに協力しろ、そういう事か」
「察しが良くて助かります」
「信頼はしないが、今の言葉は信用する事にしよう」
「それで結構です。私が傀儡である事には変わりませんしね…」

そうして。
サイバーグラスを再び身に付け、いつもの食えない笑みを浮かべるカスラ。

「そうそう、一休みされたらウォパルを訪れる事をお勧めします」
「…ウォパル?」
「行けば分かりますよ、貴方ならば」

そう言って、洗浄されたばかりのリュードのアークス用携帯端末を差し出すカスラ。
これにデータを入れてある、と言わんばかりだった。
リュードは頷いてそれを受取り、左腕に装着する。
それを見届け、カスラは頷き返した。

「貴方の身に起きたこの事態を利用するような形になって申し訳ありませんでした」
「怪我の功名―とでも言うべきかね」
「こんな形でなければ、貴方と話も出来なかった。私の立場は『そう』なのです。ですが、貴方を心配していたのは嘘ではありませんよ?」
「…お前さんも苦労してるんだな」
「貴方ほどではありませんよ」
「違いない」

リュードはその言い様に思わず苦笑した。
カスラはホログラムモニターへ今一度目を落とす。

「今回の事は他言無用で。ダーカーの巣に行った事も含めて、不用意に他者に話さないで下さい」
「承知した」
「ダーカークローンに関しては、キャンプシップの管制にシールド強化と転移座標の更なる暗号化を進言しておきます。これ以上の損害は防がねばなりませんので」
「それで何とか成ると良いんだが」
「そう願います」

端末を閉じて立ち上がり、カスラは外へ通じる扉をノックした。
直ぐに、扉が外側から開かれる。
カスラは振り返り、外に出ろと促すようにその左掌で扉の外を指し示した。

「貴方への嫌疑は晴れました。もうひとりの女性も程なく開放されるでしょう」
「助かる。もう薬品の匂いは懲り懲りだ」
「それに、これ以上貴方を拘束しておくと、貴方の大事な女性(ひと)に殺されかねませんからね」

苦笑しながら扉をくぐって廊下に出ると、そこに一人の女性がぽつんと佇んでいた。
カスラが呼んでくれたのだろう。
一人寂しく、窓の外を漫然と見つめている。

「…エリ?」

声をかけると、跳ねるように振り向いた。
リュードを見つけ、一瞬呆然とした後に。

「……リュード!!!!!!」

両手を伸ばし、その身を投げて飛び込んで来るエリ。
リュードは慌てて抱き止める。

「…良かった…無事でよかった…!」

顔を上げたエリの涙に濡れた目の下には隈が。
自分が行方不明になってから丸二日、禄に睡眠も食事も採っていなかった事が伺える。
だが、己の背中に回された手の力は驚くほど強かった。

「心配かけた、すまん」
「本当に、本当にもう…!」

落ち着かせるように、その両肩に手を置く。
ようやく涙を拭いて崩れたような笑みを浮かべたのを見て、リュードもまた笑う。
その様子に、カスラはふぅとため息を付いて小さく手を上げた。

「…それでは、いずれまた」
「ああ」

カスラは踵を返し、歩き出した。
リュードには、カスラの、どこか人を食ったような態度をする理由が何となく見えた気がした。
憎まれ役を引き受ける理由。
自虐し、他人に自分を憎ませ、自分という存在を消したがっているのではないのか。
人の事など言える筈もない。
リュードはカスラの背をただ見送った。




数日の休養期間を与えられたリュードであったが。
それを返上し、今彼らはかの星へ降り立っていた。

「肩は大丈夫なの?」
「もう殆ど痛みは無いよ。これ以上休んでたら体がなまっちまう」
「ホント、真面目を絵に描いたような人ね…」

エリがクスクスと笑いながら、それでも警戒を怠っていないのが手にしたロッドの状態で分かる。
ルーライラと呼ばれるロッド。ピンク色の大きな花のようなブースターが杖の両側に付いている。
格納状態では、体を取り巻くフォトンリングに花が二つ付いているような不可思議な形。
ジグが言うには、フォトンが少ない極環境でも効率良くフォトンが扱えるようにとこの形状になったらしい。
エリはその形をひと目見て気に入り、ジグから譲って貰った。
くるくるとバトンのようにロッドを回してその感覚を確かめながら、エリがリュードへ向き直る。

「あの娘との待ち合わせはここでいいの?」
「その筈だ」

偶然か、それとも必然か。
昨日開放され、その手でウォパルへの探査を申請しようとした時、サラから調査協力の依頼が舞い込んで来たのだ。

「今更だけど、あなた達…あたしをそんなに簡単に信用してしまっていいの?」

背後から、不安と不満とが入り混じった少女の声がする。
いつの間にか、サラがそこに居た。
不機嫌極まりない顔をしているサラに、エリは怪訝そうに首を傾げる。

「…どうしたの?サラちゃん」
「もう、子供扱いやめてって」

子供だろう?と言いかけて、リュードは口を噤んだ。
子供だからこそ、背伸びをして大人と対等になりたがる。
サラは頬を膨らませ、二人を睨んだ。

「あたし、アークスじゃないのよ?…そりゃあなた達に信用して貰う為に色々したけどさ。それも、大きな裏切りの為の布石とかって考えたりしないの?」
「…そんな器用な真似が出来るようには見えんが」

リュードは苦笑しつつ、そんな言葉を口にする。
益々、サラはふくれっ面を酷くした。

「あなた達が人を簡単に信用するから、心配して言ってるんじゃない!」
「君に心配される程間抜けじゃないよ」
「あー!また子供扱いした!!」

一人で勝手に怒って一人で不機嫌になる。
思春期の女の子特有の反応。
肩をすくめ、リュードはエリと顔を見合わせた。
はーぁ、と一つバカでかいため息を付いて、サラは背を向ける。

「とにかく、調査手伝ってくれるのよね?」
「だからここに居るんだがな」
「じゃあ、早く行きましょ」
「って、アテはあるの?」
「一応は、ね」

そう言って、スタスタと歩き出すサラ。
後を追うように歩き始めた二人だったが、リュードには一つ気がかりな事があった。
今自分達が居る座標。
そこは、カスラに与えられた情報の中にあった座標の一つに程近い。
エリにはその事は話してあるが、サラにはまだ伝えない方が良いかもしれない。
サラは見ての通り、まだ感情をコントロールし切れない少女。
彼女に伝えれば、それはあっという間にシャオやマリアへ伝わる。
先程サラが言ったような『大掛かりな裏切り』が仕組まれているのであれば、よっぽどマリアの方が信用ならない。

「お?なんや、あん時のにーさんとねーさんやないか!」

不意に、素っ頓狂な声が足元から聞こえてくる。
聞き覚えのある声に、リュードは視線を落とした。

「…カブラカンか」

サラがぎょっとして、その声の主を見る。

「え、何この生き物、知り合い?」
「あ、うん。ちょっと前に知り合ったのよ」
「なんや、覚えのある反応やな」

エリが慌てて、そう答えた。
カブラカン。
以前、この星でダーカーに襲われそうになった所をリュード達が助けた、海洋生物のような、巻き貝のような頭を持つ原生生物。
青く光る目のようなものをきょろきょろと回し、リュード達を見ている。

「あんたら、今日はこっち来とんのか。しかも別のねーちゃん連れとるし。忙しいなぁ」
「任務だからな。カブラカンは何故ここに?」
「オレは食料探しや。最近家の周りじゃめっきり飯になりそうな食い物が減ってもうてなー」
「カブラカンさんも大変ね…。奥さんの分もでしょ?」
「そうや。こないだみたいな事起きたら敵わんからな。オレが頑張っとる」
「なるほどな」

カラカラと笑いながらも、その言葉の重みは変わらず。
しばらくその様子を見ていたサラはふと思い出したように、カブラカンと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「ねえあなた、この辺で地下に通じる洞窟見た事ない?」
「洞窟?あるで?」

サラに向き直り、カブラカンは少し首を傾げて頷いた。
その答えに、しめたと言わんばかりに表情が明るくなるサラが居た。

「何処に?」
「ほれ、あそこに大きな岩山があるやろ?あの岩山をぐるっと海沿いに回り込んだ所に、大きな洞窟が口開けとんねん」

タコの足のような手が指し示す先に、海に突き出る様にゴツゴツとした岩山があった。
しかし、その手を組むようにして、カブラカンは少し悩むように頭を下げる。

「けどなぁ、あそこ悪い噂があってなぁ」
「悪い噂…?」
「あそこに入ったオレらの仲間が何人も行方不明になっとるんや」
「…それ、ホント?」

食い入るように、サラはカブラカンに問いかける。
その剣幕に、少しカブラカンは身を引いた。

「ホンマホンマ。オレらの間じゃ絶対にあの洞窟には入らんようにしようて暗黙の決まりがある位や」
「行方不明…」
「にーさん達は強いから大丈夫やろけど、気ぃつけや?何がおるか分からんで、あそこは」

そいじゃ、と手を上げ、カブラカンはマイペースに歩いて行った。
それを見送り、サラが眉間にシワを寄せる。

「…何あれ…この星の原住民…?」
「そうらしい」
「何で言葉が通じるの?翻訳無しで、オラクルの言葉を使って意思疎通可能な生物なんて…」
「本人?は、最初から言葉は使えたと言っていたわよ?」
「…そんな筈無いわ。まさか現物を目の当たりにするなんて…」

サラは厳しい表情を浮かべて端末を開き、ホログラムモニター目いっぱいにデータを広げる。

「何らかの―違う、人為的な介入で作られたものでしかありえない」
「ちょっと待て、人為的だと?」
「こんな事が出来るのは、あいつしかいない。シャオに確認しなくても分かるわ、こんな酷い事…」

ぞわ、とリュードの背に冷たいものが走る。

「どういう事…?」

エリの率直な疑問に、サラは厳しい表情のまま頷き、歩き始める。

「…後で教えるわ。今は進みましょ」

ここに降り立った時の違和感。
その感覚は間違いなかったのかもしれない。
エリはリュードと顔を見合わせ、真顔で頷き合う。




本来、光のない暗い洞窟、の筈。
水の流れる音がする。
エリがその幻想的な光景に、思わずぽつりと呟いた。

「綺麗…だけどこれ…どうなってるの…?」
「明らかに異質な文明の手が入ってるな」

足元には、膝下ほどまでの深さの水が洞窟の奥へ奥へと続いていた。
だがそこには、光が届いている。
洞窟の天井に、どういう訳か明るい水面が見えるのだ。
深碧に輝く壁や岩。
間違いなく、その空間に空気はある。
そして、歩を進めるに従って目に入ってくる見覚えのない人工物の残骸。
あちこちを調べ、写真を撮りながらサラが答える。

「ここが新しく見つかった未開の星なんて笑っちゃうわ。このウォパルは、フォトナーのリゾート地だった星なのよ?」
「フォトナー?」
「フォトナーって言うのは、はるか太古に存在していた人類の事。私もまだ詳しくは知らないんだけどね」
「その連中の観光地だって云うのか、ここが?」

不自然な洞窟、地上に設けられた謎の施設。
それを残した文明の主?
またもアークスは嘘で塗り固められた情報を流しているのか。

「そしてこの星には、ルーサーの実験場と思しき痕跡があるのよ」
「ルーサーの…実験場…?!」

サラから、唐突にリュードの端末にデータが届いた。

「…これは…」
「貴方なら分かるでしょ、その意味が」

慌てて受信確認をすると、この星の原生生物らしき生き物のデータがぎっしりと。
その中に、先程のカブラカンそっくりな生き物のデータが。
そしてそこには。

「カブラカン達は…人と原生生物の…」

そこまで言って、リュードは口を閉ざす。
だから、自分達と同じ言葉が喋れた。意思疎通が可能だった。
それは実験動物としてこの星の原生生物が扱われていた証拠だった。
自分と、同じ。
微かに震えるリュードの拳にエリが気付き、落ち着かせるようにその手を重ねる。
リュードの変化に気付いたのか、調査の手を止めてサラが彼を見た。

「ルーサーは、フォトナーの最後の生き残りだって言われてるの」
「あの男が、か?」

そも、フォトナーとは何なのか。
あの男から感じ取れる人ならざる気配がフォトナーだからと云うのならば。
いや、サラは『はるか昔に存在していた』と言った。
その言葉から察するに、今は滅んでいる事になる。
どうやって今まで生き延びてきたのか。
疑問の浮かぶ顔に、サラは少しだけ笑みを浮かべて。

「だからなのかしらね、ここを好き勝手に弄って、やり尽くしたから放置してアークスに片付けさせようとしてる。そんな所」
「酷い…」

放置した?
オラクルだけでなく、一つの惑星まで使って命を弄んだ上、事が済んだからと捨てた?
知らず、リュードは唇を噛んでいたらしい。
その唇から滲む血に、サラの目が細くなる。

「ホント、反吐が出るわよ。…でもまあ、その気まぐれのお陰でここで調査出来るんだから皮肉よね」
「…冗談で済ませるにも程がある…」

以前からそうだった。
どんなに冷静であろうとしても、研究部の、虚空機関の人道から外れた仕打ちを目の当たりにすると怒りを抑えきれなくなる。
それ程、トラウマとして刻まれた傷が疼くのだ。
空気を変えるように、サラは視線をモニターに落とした。

「っと、ちょっと待ってね、シャオにデータを送るわ」
「…了解した」

我に返るように、リュードは大きく深呼吸する。
落ち着かなくては。
ホログラムキーボードを叩きながら、サラは言葉を続ける。

「あいつがここに来られれば楽なんだけど、今は無理らしくてね」
「何故だ?」
「分からない。あたしも知らないの。あいつ、突然突拍子もない事をし出すから困ってるのよ。まあ、それでもシオンよりはマシなんでしょうけどね」
「シオン、か」

シャオはシオンと同質の存在。
その言動が常人に理解出来ないのも仕方ない事なのかもしれない。
シオンの難解な言動は、それを他者に理解させない為だと云う。
それでも、此の所の彼女の言葉は意味が通じるようになり始めている。

「ルーサーが解析しているから、彼女はそれでもどうにかして理解できない形で伝えるしか無い。云わば、盗聴されている状態で助けを求めているようなものなのよ」
「迂遠な表現かくあるべし、か…」
「まあ、シオンの『縁者』が特別コミュニケーション下手なのかも、ね」

と、そう言って悪戯な笑みを浮かべ、リュードを見る。
釣られて、エリまでが自分を見上げた。
縁者?
俺の事か?
確かに、自分は言葉で伝えるのが下手なのは間違いない。
自分にそういう自覚は無いが、彼女の『声』を一番最初に聞いたのは自分なのかもしれないと、ふと思い出す。

待てよ?
あの声は。いやあの『音』は。
あの武器を集めさせるように俺の心に直接響いてきた音。他の誰にも聞こえなかった音。
今だからこそ分かる、あれはシオンの声だった。
だとすると、あの『クラリッサ』はやはりシオンが生み出した物か。
調査そっちのけで考え続けるリュードは、奥へ進むサラとエリに無意識に付いていく。

「…ここだけは、完全に異質ね」

サラの声にようやく我に返ると、妙に広い空間に出ていた。
天井にいくつもぶら下がる透明な球体。
中には割れて機能していないものもあったが、殆ど無傷の状態で残されているその装置。

「…何…これ…?卵みたいに見える…それに…この…」

片言のようにつぶやき続けるエリの首筋がチリチリと疼く。
ダーカーの気配というより、ダーカー因子が妙に濃い空間であった。
サラは水面より高い場所に据え付けられた異文明の端末らしきものを見つけ、歩み寄る。

「隠す気配も無いわね、ここ。何かを作ってた…あるいは、くっつけてたのかな。悪趣味なアイツのやりそうなことね」

言いながら端末を繋ぎ、瞬く間に言語を変換。
オラクルの言葉で次々にデータを表示させ、吸い上げていく。

「完全とは言えないけど、データが残ってる。ダーカーと原生種の混合記録があるって事は…ここでやってた実験はそういう物なのね」
「ダーカーと、原生種だと…?」
「…どおりで反応があるはずだわ…」

エリは首筋を抑えて、警戒し続けている。
彼女独特の能力である『探知』を使っているのだが、フォースにクラスチェンジしたお陰なのか、負荷のようなものは感じない。
エリをしばらく見ていたリュードだったが、その様子をみて安心したようにサラへ視線を戻した。
当のサラはデータへ目を通し続けていたが、項目が変化した時に顔色が変わった。

「…何コレ?水の組成分解、星との合成?…ちょっとちょっと、惑星自体をいじくってる!?」
「惑星を…?どういう事だ」
「わかんないわよ、アイツ何考えてるの!?こんな、惑星の構造そのものを変えるなんて…」

惑星の位置や大きさに対して自転の速度が異常に早いのも、潮の満ち引きが異常なまでに早く、大きいのも。
ルーサーの大規模な実験が行われたせいなのだろうか?
だとすると、何の為に?

「…ホント、訳わからない。ただ、ルーサーのやろうとしてる事はあたし達が考えてる以上に相当にやばい。それだけは、分かるわ」
「それは同意する。こんな大掛かりな研究施設を隠そうともしていない時点で…」

リュードが振り返った時、天井に埋め込まれて居た一際大きなガラスのような球体に亀裂が入った。

「…えっ?」

エリは思わずルーライラを構えた。
リュードもペインを抜き、サラも背にあるワイヤードランスへ手をかける。
中で何かが蠢いている。
ピシリ、ピシリと亀裂が大きな音を立てて増え、その中の何かの動きに器が耐えきれなくなった時。
派手に割れて、中のそれがぬるりと這い出して来た。

「…エネミー?!」
「ルーサーの『実験体』よねこれは」

大きなイカのような姿、何本もある足。
上半身はぬめりのある鱗のようなもので覆われ、2本の腕のカニバサミを鳴らして威嚇して来た。
体の表面に、何故か小さな稲妻のようなものが絶えず走っている。

「どうやら、俺たちを敵だと認識したようだぞ」

サラがふんと鼻で笑った。

「…電気イカ?いやそれともタコかしら。どちらにしても、気持ち悪いわね」
「油断するな、どういう攻撃を仕掛けてくるか…」

言った側から、3人に向かってその長い足を何度も叩きつけて来る。
その足先からジェットのように水の弾丸が彼らを襲った。
飛び退くようにしてそれぞれが避けると、今度は足を放射状に広げて僅かに浮かび上がって行く。

「ええい、埒が明かないわ!」

小さな身体を更に小さくして、サラがその本体の真下へと滑り込む。
その時、体に纏わり付いていた小さなプラズマのような光が全ての足へと広がった。
足先に電気が集約していくように見える。
リュードはその意図に、咄嗟に叫ぶ。

「いかん!水から上がれ!!!」
「えっ!?」

リュードの叫びと、その放電はほぼ同時だった。
エリとリュードはぎりぎり、あちこちに転がっている大きな岩の上へ逃げる事が出来たのだが。
エネミーの真下に居たサラは。

「きゃあああああああああああああああああああ!!!」

まともに水を伝う放電を喰らい、白目を剥いて水の中へ昏倒した。

「サラちゃん!!!」
「動きを止めないと駄目だ」

サラを足元に、その大きな海洋生物のようなエネミーはゆらゆらと踊るように体を動かした。
挑発しているのだろうか?
今のままでは水に入った途端に再び放電され、サラの二の舞いになる。
かといって、早くサラをあの場から救い出さねば、彼女の命は。
エリが倒れているサラを見詰め、その目が鋭く輝いた。

「動きを、止めればいいのね?」
「出来るか?」
「多分大丈夫だと思う。任せて」

ルーライラをきつく握りしめ、エリは水へと足を踏み入れる。
リュードはエルダーペインを構えたまま、それを見守った。
彼女に気付いたエネミーは、エリへ向き直ってゆっくりと近づいてくる。
エリはにっこりと笑って、ロッドを構え直した。

「どっちが早いかしらね?」
「ウルルルルルルルルル…!」

唸り声を上げ、化物はその足をエリへと伸ばす。
その瞬間、エリは水面からジャンプ。
ロッドには既に、彼女の膨大なフォトンが集約されていた。
エリの行動に翻弄され、エネミーが足を振り回す。

「遅いわ!」

ロッドを掲げるように、エリがフォトンを開放する。
彼女を中心に、猛烈な冷気が巻き起こった。
フォトンによって冷やされた極低温の空気が辺りの水蒸気を瞬時に凍らせ、吹雪の竜巻に。

「グ・・・キシイイイイイイイイ」

局所的に引き起こされた吹雪によって、たちまちその太い足がバキバキと音を立てて凍り付いて行く。
身動きが取れなくなり、その巨大な海洋生物は妙な叫び声を上げてブルブルと身を震わせた。
一瞬の後。
ダン、ダン、と大きな音が2回。
リュードがその凍りついた足を踏み台にして、ペインを振りかぶりその身を宙に躍らせていた。
一瞬、その巨大な生物と視線がかち合う。

「…すまんな」

つい、口から出た言葉。
それは、己と同じ運命を背負い生み出された生命体への懺悔だったのか。
その言葉と同時にリュードはくるりと身を丸め、遠心力を使った渾身の力を持ってそのエネミーを氷ごと縦に一刀両断した。
震えが止まり、頭から真っ二つになったそれは水の中へ崩れ堕ちる。

ようやく、静寂が戻ってきた。

「…サラちゃん!!!」

エリは直ぐに、水の中へ倒れ伏すサラへと駆け寄った。
抱え起こし、レスタを掛ける。

「…う…」

何とか、間に合ったようだ。
ずぶ濡れになっているが、薄目を開けてようやく声を発した。
レスタを掛け続けるエリの顔が綻ぶ。

「良かった…間に合って」
「…あ…エリ…アルド…?」
「喋らなくていい、エネミーは倒した」

辺りを警戒しつつリュードが言うのを見て、サラはようやく目を瞬いた。
レスタのお陰か、さほどダメージを食らっていなかったのか。
サラはエリの手を借りながらも立ち上がる。

「ああもう、あたしカッコ悪…!」
「大丈夫?」
「助かったわエリアルド」
「無理しないでね?」
「大丈夫だけど…あー…」

サラは禄に戦えなかった自分を嘆いて、肩を落とし俯く。
リュードは苦笑して、その頭へ手を置いた。

「気にするな。エネミーは倒せたんだから」
「あたしだって役に立ちたいのよ。だから子供扱いしないでってば」
「…はいはい」

本当に悔しいらしい。リュードの手をムキになって振り払うように退けてから。
顔を真っ赤にして、サラはそっぽを向いた。
それがあまりにも子供っぽい仕草だったので、思わずリュードは目を丸くしてエリと顔を見合わせ、笑う。
マリアが未熟者と笑うのも頷ける。
ごまかすように、サラは自分の端末を開いた。

「と、とりあえず、残りのデータを吸い上げて…」

サラが今一度、その古い端末のようなものへ向かおうとしたその時だった。
背筋が凍るようなその気配が、リュードを取り巻く。

「…!!!」

リュードは有無を言わさず、二人の腕を掴んで奥にあった岩に走った。

「えっ?!」
「ちょっと…?!」

水の無い岩場の影に二人を押し込めるようにして隠れる。
サラが半ば暴力じみたリュードの行動に、怒りを露わにした。

「…どうしたって言うのよ…!」
「しっ」
「…」

口に指を当て、それからリュードは岩陰から今まで居た場所を黙って指した。
そこにやってきたのは。

「ふーむ、倒されてるねぇ」

その、冷静なようで粘りつく声。
ルーサー、と思わず叫びそうになり、サラは自分で自分の口を両手で抑えた。
エリは咄嗟に携帯端末からさらに小さな端末を分離させ、砂の上にそっと放り投げ。
自分の端末で、その場の状況を映し始めた。
リュードとサラはそれを覗き込む。
ルーサーと、もう一人。
額の上から鋭い角のような物が突き出た、左右で目の色が違う金髪の男。
その場を確認するようにきょろきょろと見回していた。
危なかった、もう一瞬気付くのが遅れていたら。

「僕達より前に誰かが来たみたいだ。すまないね、君の性能調査にうってつけだと思ったんだが」
「別にいいですよ。それより、ここもやるんですか?」

リュードは耳を疑った。
この声は…?!

「ああ、頼むよ、テオドール君」
「はい」

テオドールと呼ばれた青年。
リュード達が見知った青年の面影は消え。
その色の違う目に狂気を宿し、不可思議な文様が刻まれたその腕を振り上げた。
手に集約されたフォトンはたちまち炎の塊と化し、辺りを破壊し始め。
その場に残っていたエネミーの残骸はおろか、研究施設のようなものを壊し、潰し、燃やし尽くす。
リュード達の所までその炎は襲い掛かって来たが、彼らはそれを身を縮めて只管耐えた。
それが収まり、静けさが戻ると。

「…こんなものでしょうか」
「お見事。流石だね」

大仰に手を叩き、彼を褒め称えるルーサー。

「まあ、これだけやっておけば大丈夫だろう」
「お望みでしたら、ここ全てを吹き飛ばす事も出来ますけど?」
「ふふ、そこまでしなくてもいいよ。…もっと言ってしまえば、ここを破壊する必要だって無かったさ」
「そうなんですか?」

ルーサーがにこやかに、だが怪しく微笑む。
破壊された施設をあちこち見てまわり、両腕を広げて。

「何を調査しようが、何が判明しようが、アークスは僕の掌の上で踊るだけさ。でも、踊る事すら出来なくさせてしまうのは無粋が過ぎるだろう?」
「そういう、ものなんですか」
「既に僕の手には全てが揃った。もう何もかもが手遅れだと言うのに、抗う姿が滑稽で面白いのさ」

舞台役者のような言い回しは相変わらず。
テオドールはゆっくりと、首をかしげる。

「ぼくにはよく、分かりません」
「大丈夫、もうすぐ分かるようになるよ」
「はい…」
「では、次の場所へ行こう」

誘うように、ルーサーはテオドールと共に姿を消す。
気配が消えて、静けさが戻ってきた。
それまで息をする事すら止めていたように静かに身を潜めていた3人であったが。
ぶはぁ、とサラが息を吐き出し。
岩陰から飛び出して、ルーサー達が消えた場所を睨み据える。

「…冗談じゃないわ!あんたの掌の上で踊るだけなんてまっぴら御免よ!笑ってる内に仕留めてやるんだから」
「ええ、放ってなどおけない」

エリも鋭い目で、ルーサーの痕跡を見据える。
後を追うようにリュードが破壊された施設の残骸へ歩み寄った。
その顔は、苦虫を噛み潰したよう。

「…テオドール…」
「ルーサーと一緒に居た奴の事?誰なの?あれは…」

サラの言葉に、リュードはしばらく言い淀むが。
重い口を、開いた。

「…少し縁があってな。友人だった。…だが、想い人が死んで…」
「それを自分の力の無さのせいだと自分を追い詰めて、その果てにルーサーに力を求めたのよ…」
「なんで?!よりによってルーサーに…?!」
「勿論止めたわ。でも…私達の声は届かなかった…」
「ルーサー…!」

ぎりぎりと、サラが悔しさで歯ぎしりをしているのが分かる。

「利用するだけ利用して…必要がなくなれば捨てられる…そんな道を、彼は自分から選んだって言うの?冗談じゃないわ、そんなあたしみたいな人を増やしたくなくて今まで頑張ってきたのに!!」

サラもまた、ルーサーによって虐げられた一人なのか。
そうでなければ、そんな言葉は出てこない。
エリは怒りに震えるサラに歩み寄って、思わず彼女を抱きしめた。

「…エリアルド…?」
「サラちゃん…大丈夫。私達は解ってるから…」
「…!」

それまで躊躇いがちだったサラの手が、エリを力一杯掴んだ。
エリの胸の中で震え、声を殺して、サラが泣いているのが分かる。
その小さく細い肩には重すぎる人生を、彼女もまた歩んできたのだ。
エリはそっと、その頭を撫でた。
サラが落ち着くまで。
リュードはただ、目を細めて二人を見詰める。

しばらくして、サラが顔を袖で拭くような仕草をしてから顔を上げた。

「ありがとう、エリアルド。もう大丈夫」
「うん」

エリが手を離すと、サラはリュードへ向き直った。
その目には、力強い光が戻っている。
こんな少女ですら、これ程迄の強さを持っているとは。
いや、強くならざるを得ない。それが現実なのだろう。
携帯端末を開き、データを確認しながら、次の一手を考え始めていた。

「…なんとかして、彼をルーサーの手から救う方法を考えなきゃ。幸い、データは破壊される前にあらかた吸い上げられたし」
「そのあたりは、任せていいか?」
「ええ。シャオと相談して対応を考えるわ。あなた達はシオンをお願い」
「心得た」

ルーサーは言っていた。
全てが揃ったと。
何かを、始める気なのだ。
オラクルを、下手をすればこの世界そのものを揺るがすような何かを。
その前に止めなければ。

「あたし達みたいなのは、もう生み出させちゃ駄目。そうよね、リュード」
「ああ」

サラが、己を見据えて笑っていた。





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