PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(15)

レイレッグが出ません()


この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
「Black Dream」~黒い夢~(~Ep1前まで)
「時の輪」(Ep1該当)

現在執筆中。
PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2~3該当)
プロローグ
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(11) (12) (13) (14)
 
 
 
(15)


それから数日。
通常任務を続けながら、任務終了後にテオドールやウルクの動向を調査した。
ロビーの片隅で、エリとリュードはお互いに端末を開いて情報を共有。

「…やっぱり、テオドール君がおかしくなり始めたのはあのテミスの襲撃後ね」
「テミス…やはりトリガーはウルクの死か…」

テオドールと行動を共にしていたというアークス達に話を聞いた。
あの襲撃後に「強くなるために自分に戦い方を教えろ」と押しかけてきたらしい。
最初は教えられるままだったが、彼はあっという間に指導していた筈のアークス達の能力を超え、単独行動するようになったと。
狂気を孕んだ行動がエスカレートしていったのが目に浮かぶ。

「ついていけなくなった、そう言っていた」
「周りが見えなくなって行ってたのね」

しかし、とリュードはテミス襲撃の当日のデータを表示させる。

「…妙なんだよな」

テミス襲撃、当日のデータ。
被害記録が公開されていないのだ。
アークスシップが襲撃された時は必ず、その人的被害、物的被害等の詳細なデータが後日一般公開される。
それが、いつまで経っても出て来ない。
ウルクがテミスに居たかどうかすらはっきりせず、ただ「死亡」「アークス登録抹消」とだけ届けが出されていた。

「実は、クーナちゃんにもお願いして調べてもらったんだけどね」
「彼女にか」

六芒均衡の零という「本来存在しない存在」であるクーナ。
アイドルという肩書の裏側で、人知れず始末屋という稼業を強要され続けている彼女。
あのハドレッドの一件以降、エリとクーナはどうやらプライベートで交流を続けているらしい。
それはリュードにとっても願ってもないパイプとなった。
だがしかし。

「クーナちゃんでも駄目だったって言ってた。彼女より強い六芒の権限で情報封鎖されてるって…」
「彼女の上…ひょっとしてレギアスか…」
「…お手上げだわ」

被害データの詳細を検索しようとすると、そこでセキュリティストップが掛かるのだ。
情報封鎖の責任者はレギアス。
こちらが調べようとした事さえ、レギアスには知られてしまっているだろう。
エリの顔に怒りが浮かぶ。

「でも、逆に言えばあの襲撃がただの襲撃じゃなかったって言ってるようなものよね」
「…その通りだ」

リュードは、データを幾つも開きながら眉間に皺を寄せて呟く。

「これから言う事はあくまで俺の憶測だって事を承知してくれ」
「何か、分かったの?」
「…あの襲撃、クラリッサが奪われた事の方が『ついで』だったとしたら」
「ついで?」

発想を逆転させ、答えを導き出す。
今まで、あの襲撃はクラリッサを奪う為、つまりエルダーを復活させる為にあのダークファルスの女が仕掛けたものだと思っていた。
だがそれならば、被害記録を隠す必要など何処にもない。
むしろ、初めから虚空機関が裏側で動いていたのだとすれば色々と符合する。
ゲッテムハルトに、L計画のデータやクラリッサの所在を虚空機関が流していた可能性も否定出来ないのだ。
あの場を混乱させる為に、本来の目的を隠す為に。

「クラリッサを奪う事が主な目的じゃなかったと考えるとな…恐ろしい答えが出てくるんだよ」
「…ひょっとして…ウルクちゃんを殺す為だった…?!」
「ウルクの言葉を覚えてるか」

彼女は元々、フォトンを扱う才能が皆無だった。
アークスに憧れていたのに、フォトンの体内保有量もゼロに等しく、だからこそアークスになれずに居た。
なのに。

「…確か…えらい人が自分を見初めてくれて…アークスの輸送艦に勤務する事にって……!」
「そうだ。その『えらい人』が、ルーサーだったとしたら?」

エリの表情が青ざめる。
才能を持たない一個人を私的理由で予備役とは言えアークスにする事などあり得ない。
それが「出来る立場」の人間ならば、テオドールとウルクの関係を知る事など容易い。

「待って、じゃあ、最初からテオドール君を自分の手元に置くために仕組んだ事だって言うの…?!」
「ありえない話じゃない。俺達自体がそうだっただろう?」

あっ、とエリは思わず声を上げた。
「リュード」と「エリアルド」が10年前に遭遇し、共に逃げる事も。
10年後に再会した事も、全てが研究部―虚空機関に仕組まれていた事。
この程度の操作位は簡単にやってのけるだろう。

「それに、テオドールのアークスとしての能力は尋常じゃなかった。そこを狙われたのかもしれない」
「…確かに、テオドール君のフォトンの含有量は凄かったけど…でもたった一人の為にここまでするなんて…」

リュードは答えの代わりに、手元にある「自分」の実験のデータと、もう一つのデータを比べるように表示させる。

「…デューマン化実験…」
「え」
「俺の実験を元にして、生み出された種族…それがデューマンという種族だ」

アキからあの後受け取ったデータが、リュードの手元にある。
自分―つまり、ダークファルス・エルダーの因子を遺伝子に組み込む実験を元に、別の実験が始まっていた。
リュードのように、胎児の頃から遺伝子を組み込む素体は能力も大きいが時間も費用も掛かりすぎる。
故に「後天的にD因子をアークスに付与する」という非道な実験も行われていた。
そのままでは侵食を受けて使い物にならなかったので、その時点でアキが行っていた研究を組み込み「龍族とダーカーを掛け合わせた遺伝子」を使用した。
その過程での被害者がハドレッドであり、クーナであった。
最近たまに見かけるようになった「頭に角を持ったアークス」が、デューマン。
角は龍族の遺伝子の名残だが、当たり前のようにアークスになり、活動している。
彼らは皆、研究部の被害者なのかもしれない―それを本人が知っているかどうかは別にして。
研究部にとって、記憶操作など簡単な事。

「膨大なフォトンの保持者が、侵食されずに安定してデューマン化する可能性が高いそうだ…」
「テオドール君の見た目が変わってたのは…そのせい…?」
「あの身体の不可思議な文様はナノマシンなんだそうだ。体組織の組成崩壊をナノマシンで防いでいるのだと…」

全ては、テオドールという類まれな能力の持ち主を実験体にする為の布石。
そう考えると、気持ち悪い位にパズルのピースが納まってしまう。
テオドールは元々臆病で、戦う事が嫌いな少年だった。
それを自ら戦いに赴くように仕向けるには、その大切な存在を失うという事件を引き起こすのが一番容易い。
後は言葉巧みに自分の元へ来るように誘うだけ。
ちくりと、心が傷んだ。
「あの時」の自分と、どうしてもテオドールが重なる。
だからこそ。
リュードは端末を閉じた。

「…行こう」
「何処へ…?」

決意を込めて、リュードはエリに笑う。

「ウルクを助けに行くんだ。あの時のテミスへ」
「…!」

エリは呆然とリュードを見、そしてその表情が一気に期待と喜びへ変化した。
そう、これは自分達だけにしか出来ない事。
過去へ向かいウルクを救い出す。
ウルクは元々エリの友人でもあっただけに、それを助けるとリュードが決めた事がよほど嬉しかったに違いない。

「…でも、シオンさんやシャオ君の助けも借りずに…出来るの?」

期待しながらも、不安が入り交じるエリ。
リュードはふとシオンの言葉を思い出す。

 『私が貴方を選んだ理由…それは、貴方自身が持つ「力」。私はそれを少しだけ助けているに過ぎない』

自分の力が「時を超える」能力そのものだとしたら。
そう考えた時、手元にある事象の羅針盤(マターボード)が、今までと違う輝きを見せた。
それを自ら使おうと思った事はただ一度だけ。
眼の前にいるエリを死の道から救い出そう、そう決めた時と同じ―青く透き通るような輝きだった。

「大丈夫、何とかなるさ」
「…貴方がそう言うなら」

今度は、ウルクを救う。
そうすれば、テオドールをルーサーから引き離す事も可能になる。
何より、そんな理由で大切な存在を奪われたテオドールを放っておく事など、出来なかった。





煙の匂い。
僅かに感じる、ダーカーの気配。
警報が鳴り響き、遠くで幾つも爆発が起きている。
非常時のキャンプシップ発着場に、彼らは降り立っていた。

「あの時私達はスペースポートに居たのよね」
「…カスラに出会ったのもそこだった」
「ええ…」

そのとき、隣に立っていたエリがその身をふらつかせた。

「え…あれ…何これ…?」
「…どうした?」

突然襲ってきた目眩と、胸を何かが貫くような感覚。
エリは両手で胸を抑えて、崩折れるように両膝をついてしまった。
リュードは驚き、それを支えるように肩を抱く。

「大丈夫か」
『繋がった、かな』
「…何?!」

肩に置かれたリュードの手をその手で外し、エリは何事も無かったように立ち上がる―が。
今聞こえた声は、エリのものではなく。
腰を落としたままのリュードを見下ろすエリのその胸の中心が、淡く輝いていた。
エリのようで居て、その表情は全く別の何か。

『僕はね、待ってたんだ。君が自発的に歴史を変えようとしてくれるその時を』
「…お前は…?!」
『ここに来るという事は、もう僕の事も知ってるはずだよ』
「シャオ…!」

この時間軸に、既にシャオが存在している。
エリの身体を使い、自分に話しかけている。
だが、それはリュードにとっては到底看過出来る事では無く。

「…何て事しやがる…!元に戻せ!!!」

万が一、元に戻らなかったらと考えるだけで、怖気が走った。
取り乱し、言葉が乱雑になる。
エリに成り代わったシャオの肩を掴み、怒りの表情で詰め寄るリュード。
怒りを隠そうともしないリュードに、シャオは目を伏せて頭を下げる。

『君が怒るのも解ってたんだ…ごめんなさい。でも、未来の僕が彼女に「力」を分け与えていたからこそ出来る事だから』
「力…?」

思い出した、あの時にシャオから受け取った光。
あれが媒体になっているのか。
エリに大変な事をしてもらうとも言っていたが、この事か。

『エリアルドは大丈夫、僕と一緒に居るから。心配しないで』
「彼女に、害は無いんだな?」
『それは保証する。少しの間だけ、許して欲しい』
「…分かった」

憮然としながら、リュードは掴んだ肩を離した。
困ったように、エリの顔をしたシャオは笑う。

『君達が何をしに来たのか、解ってるつもりだよ。だから今、この時間においてサラにもマリアにも動いてもらってる』
「あの二人もか」
『僕が出来るのは、君のナビゲートだけ。道を切り開くのは君達自身にしか出来ないから』
「ならば…」

リュードは混乱しかけた頭を落ち着かせるように一度、大きく深呼吸し。
背負ったエルダーペインへ手を掛ける。

「…案内しろ。ウルクが消息を絶った、その場所へ」
『ここからまっすぐ。メインストリートを市街地、居住区へ向かって。もうあんまり時間がないから、急いで』

シャオはゆっくり右手を上げ、リュードの肩越しにはるか遠くに見える市街地を指す。
リュードはその指先を目で追って、頷いた。

「…分かった」
「……あ、あれ…?」

途端に視線を泳がせ、自分の両手を唖然として見詰めるエリ。
ほ、と安堵の表情を浮かべるリュード。

「…良かった、戻ったんだな」
「あれ…シャオ君は…?」
「今は居ないよ。また現れるかも知れないが」

エリは自分の両手を今一度見て、改めてその手を開いたり閉じたり。

「…変な感じ。自分が喋ってるはずなのに、自分じゃないの。身体がおかしいとかそういうのは無いわ」
「もう勘弁して欲しいところだけどな…心臓に悪い」

疲れたように、リュードは肩を落とす。
その様子に、エリはくすりと笑った。

「…ありがとう、心配してくれて」
「面倒事はもう沢山ってだけだ」

顔をしかめ、吐き捨てるように言って背を向け、歩き始めるリュード。
それが照れ隠しである事に、エリが気付かない訳は無く。
くすくすと笑いながら、彼女は後を追った。





「きゃぁ!!!!」

その場に墜ちた輸送機から逃げ出した瞬間に一際大きな爆炎が上がり、吹き飛ばされる一人の女性。
何とか顔を上げ、輸送機へと振り返るが。
もうもうと煙が上がり続け、いつまた爆発するか分からない。
同乗してきた男性は、恐らく爆発に巻き込まれて。

「…生きてる、わよね、あたし」

必死に這うようにして輸送機から離れ、瓦礫の影に座り込んだ。
ここなら、輸送機が万が一爆発しても爆風は避けられる。
飛行系ダーカーに襲われ、応戦はしたものの。
墜落する前からずっと救難信号は送信していたのに。

「…ずっと送信してるのに…何で誰も応答してくれないの…!何で誰も助けに来てくれないの!!!!」

携帯端末に向かって思わず声を荒げてしまったせいで、悪い方向へ向かった。
声を聞きつけたダーカーが、彼女へと忍び寄る。

「…はっ…!?」

気付いた時には、取り囲まれていた。
武器も何も無し。
足を挫き、肩からは出血して、身動きが取れない。
彼女―ウルクは、為す術もなく目を固く閉じ、叫んだ。

「助けて!テオーーッッ!!!!!」

絶叫を、ダーカーの鎌が切り裂く。
が。

「邪魔だ!!!!」

怒号と共に切り裂かれたのは、ウルクではなくダーカーだった。
恐る恐る目をあけた彼女の目に飛び込んできたのは、大剣を振り上げてダーカーに斬りかかる男と、自分に向かって走ってくる女。

「ウルクちゃん!!!!!」
「テオ…じゃなくて先輩!?リュードさん!??!?」
「エリ!ウルクに回復を!」
「ええ!」

リュードがそう叫びつつ、大型ダーカーを弾き飛ばし。
それから、まだ向かってくる飛行型ダーカーを片っ端から叩き落とすその姿はまるで旋風のよう。
その一方でエリが蹲るウルクに駆け寄り、即座にレスタをかける。
足や肩に走っていた痛みが収まるのを自覚して、ウルクは泣きそうな笑顔を浮かべる。

「助けに…来てくれた…」
「大丈夫?」
「うん、何とか」
「間に合ってよかった…」

その場を陣取っていたダーカーを蹴散らし、消滅させ。
ようやくリュードが息をつきウルク達に向き直ると、既にウルクは立ち上がろうとしていた。

「無理をするな」
「あの…ありがとうございました…助けて貰って…」
「無事なら、それでいい」

安堵の表情を浮かべ、リュードは剣を収める。
輸送機を包んでいた炎もあらかた燃えてしまったのだろう、殆ど鎮火していた。
それに歩み寄り、リュードは状況を確認する。

「…酷い有様だな」
「あたし、輸送機に物資を積んで飛んでたんですけど、ダーカーに襲われて…撃墜されて」
「大変だったわね…」
「救難信号飛ばしても誰も応えてくれないし…怖かった…これが…戦場なんですね…テオはこんな所で戦ってたんだ…」
「自分の置かれた状況を確認する事が出来るだけ立派よ、大したものだわ」

落ち着かせるように、エリはウルクの肩を抱いて、その身を支える。
震えながらも、気丈に笑みを浮かべるウルク。

「震えてる場合じゃないですね、帰還して報告しなきゃ…」

ウルクがそう言ってエリの手から離れた瞬間。
エリの身体が一瞬硬直した。

『駄目だよ、帰還しちゃ駄目だ』
「えっ…!?」

少年の声になったエリに、ウルクが困惑して向き直る。
シャオが再び、エリの身体へと降りて来ていた。

『君はもう、死んだことになってる。データベースに問い合わせてみなよ』

冷たく言い放つシャオに、リュードは眉をひそめた。
言われるまま、ウルクは自分のデータを照会し。
愕然となった。

「……どうして…死亡…アークスから抹消…何で!?」
『今の僕には分からないけど…リュードなら分かるんじゃないかな』

シャオとウルクの視線が、リュードへと集まる。
リュードは小さく息を吐き。

「…君が生きていたら困る存在が居る。そういう事だ」
「そんな!?誰がそんな事を!?」
「その相手は救難信号を握り潰し、データベースを改竄出来る。そいつが言うとおり、帰還しようだなんて考えないほうが良い」
『良いところ、モルモットにされて、しまいには殺されちゃうだろうね』
「そんな…何であたしを…あたしどうすれば…」

恐ろしい現実を二人に突きつけられ。
オロオロと、自分の両肩を抱えて、煤けた瓦礫にもたれかかる。
自分の存在を否定されて、正気で居られる方が不思議だ。
エリの姿をしたシャオはそれでも、そんなウルクを支えて立たせた。

『リュード、彼女の生存がバレると不味い。サラ達との合流地点へ向かおう』
「承知した」

茫然自失になったままのウルク。
リュードは眉を顰めて、ウルクを反対側から支えて歩き始めた。
しばらくそうして歩くと。
奥まった区画に、身を隠せそうなスペースがあった。
そこにウルクを座らせ、リュードは辺りを警戒する。
エリの身体を借りたまま、シャオがその隣に立った。

『そろそろサラ達が来るとは思う…けど…』

蹲り、顔を伏せるウルク。
声をかける事が出来ず、リュードはただ立ち尽くす。
自分の存在を消される事がショックでない訳が無いのだ。
―己が、そうだったように。

『仕方ない、よね。僕にだってその位は分かる』
「…そうだな」

そうして、沈黙が続いた。
が。

「あーーーーーーっ!!!!もう!!!!」

突然の大声に、リュードとシャオは驚いて振り返った。
見ると、眉を思い切り釣り上げて目を光らせ両足を踏ん張り、立ち尽くすウルクが。

「もうやめ!やめやめ!マイナス思考やめ!!!凹んだままなんてあたしらしくない!!!」
『え…ええ?!』

空元気も元気の内、とはよく言うが。
リュードは思わず目を丸くした。

「…無理しなくても良いんだぞ?」
「無理してでも元気になるのがあたしなんです!そうだよ、助けて貰ったんだからそれをもっと喜ばないと損!そうだよね!!」
『え、ええと、うん、そうだね…???』

言いながら、エリの姿をしたシャオへつかつかと歩み寄る。
気圧されて、シャオは後ずさった。

「それより、あたしが狙われちゃうなんて思いもしなかった!ホント、助けてくれてありがとね、えーと…先輩の姿してる男の子?」
『あ、ああ、どういたしまして…』
「よく分かんないけど、君、先輩の身体借りて喋ってるの?何か凄いんだけど!」
『…まあそれはそうなんだけど…それより君、ショックじゃないの?』

興味津々に、シャオは彼女を観察する。
ウルクはしばらく考え込むような仕草をした。

「そりゃあショックよ?でもわめいたって何も変わらないじゃん?だったらぴーぴー泣くより他の事考えたり動いたりしたほうが良いじゃない?」
『それはそうだけど』
「やっとの思いでアークスになったけど…それがあたしの思い描いたアークスじゃないって言うならさ、あたしたちでそれを正せばいいだけでしょ」

けろりと、ウルクは言ってのけた。
至極正論ではある、が。
普通であれば、もっと長い間悩んで悩んで悩み続けて、こういう答えを出すのが人間。
ついさっきまで、自分の存在を消されてどん底まで落ち込んだ同じ人間とは思えない程、復活が早い。
リュードから見れば、自分が長い時間かけて悩んだのが馬鹿らしくなるほど、それは清々しい早さだった。
呆れたように深いため息を付いてリュードは苦笑する。

「…驚いたな…ここまで立ち直りが早い人間見た事無いぞ」
「えっへん。元気だけが取り柄のウルクちゃんですから」
『ふふ…はは…あっははははははは!!!!!』

今度は、シャオが大声を上げて笑う始末。
そこにようやくサラがやってきたのだが。
笑い続けているシャオに、今度はサラが目を丸くする番だった。

「お待たせー、ってうっわ、本当にエリアルド乗っ取っちゃってる」
『あはははは!!!凄いよサラ!ヒトって本当に凄い!!!その答えを一人で、こんなに早く出しちゃうなんて!!!』

テンションの高いシャオに、サラは目を平らにしてリュードに耳打ちする。

「…なにあれ。どうしたの?」
「さあなぁ、よっぽど面白かったんだろうさ」

苦笑を返し、エリの姿をしたシャオを改めて見る。
人ならざる存在のシオン。
その同種であるシャオにとって、『ヒト』の行動は「分からないモノ」だったのだろう。
シャオにとっては、ウルクのようなタイプは見た事が無かったに違いない。
一頻り笑った後で。
シャオは改めてウルクへと向き直った。

『おいで、ウルク。僕やサラと一緒に』
「あなた達と?」
『君の居場所はここじゃない。君や皆が望む本来のアークスというものを、僕達が作るんだ』

ゆっくりと、シャオは手を差し出す。
それを見つめて、ウルクは少し考える素振りを見せた。

「うーん、その格好で言われてもいまいち説得力無いんだけど」
『酷いなぁ、僕の本当の姿を見ても驚かないでよ?』
「…でもま、あたしに選択肢は無いし、自分から望んで進んでいくほうがよりあたしっぽいよね」

その手を掴み、ウルクは力強く頷く。
シャオは笑みを返して、その手をサラへと受け渡し。
リュードの隣へ、歩いた。

『そろそろ、リュードとエリアルドは戻る時間のようだね』
「ウルクの事はあたし達に任せておいて」
「ああ、信頼してる」
『悪いようにはしないから』

ふっと、エリの身体からシャオが消えた。
エリはしばらく虚空を見据えてから、ウルクへと向き直る。

「…ウルクちゃん、しばらく辛いだろうけど…私達も頑張るから」
「先輩達の方が大変そうですよ?」
「…違いないな」

二人の姿が、青白い輝きに包まれて消え始める。
ウルクはそれを見て、慌てて叫んだ。

「あ!あの!…助けてくれて、本当にありがとう!!!!」

消える寸前に、リュードが手を振ってそれに答えたのがウルクには見えた。

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