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PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(18)

Posted by C-ma on 09.2018 PSO2二次創作小説   0 comments   0 trackback
半年も経っちまってた(汗)


この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。また、ゲーム内エピソード1~3を進められている方でなければ、ネタバレ状態になることをご承知下さい。

注意:初めての方はまずこちら↓
「Black Dream」~黒い夢~(~Ep1前まで)
「時の輪」(Ep1該当)

現在執筆中。
PSO2二次創作小説「刻の爪痕」(Ep2~3該当)
プロローグ
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)
(11) (12) (13) (14) (15) (16) (17)


(18)
 
 
 
いつまで続くのか分からない、何処まで進めばシオンの所へたどり着くのか。
倒しては進み、進んでは行く手を阻まれ。
疲れが色濃く出始めたリュードの視界に、一つの影が浮かんだ。
反射的にリュードは剣を構えて走り、刃を振り上げ。

「っ!!!」

相手の顔が見えた瞬間に、辛うじてその手が止まる。
見覚えのある金髪と、赤い戦闘服。
リュードの攻撃をガードしようと、大剣を盾にしている。
彼の前に居るその女性に、追いついてきたエリが思わず声を上げた。

「…エコー!」

転送されて来たアークスは、エコー。
エリの同期であり、リュードに大剣の師事を仰いだ元フォースの女性。
またか。
また、友が俺達に刃を向けるのか。
剣を下ろし間合いを取ったものの、半ば諦めも入ったような眼差しでリュードはエコーを見る。
エコーは大剣を正面に構え直した。
マトイが後ろから、か細い声でそんな彼らを見つめた。

「お友達…?また戦わないといけないの…?」

だが、エコーは剣を構えては居るものの、そこから動こうとしない。
ただじっとこちらを見ているだけ。

「…?」

睨み合いが暫く続いて、どの位時が経ったか。
エコーは剣を下ろして背中に収め、小さく息をついた。

「…やっぱり、反逆者なんて嘘だったのね、エリアルド。…リュードさん」
「!」

エコーがはにかんだ笑みを浮かべる。
瞳にはっきりとした意志が見えて、リュードの顔がようやく綻んだ。エルダーペインを収めてその身を起こす。

「正気…なんだな?」
「当たり前よ、あなた達と戦うつもりなんて無いわ」
「良かった…!でもどうして…」

エリが歩み寄ると、エコーは辺りを見回して首をかしげる。

「ここ、マザーシップよね?」
「ええ」
「あのよく分からない命令の後に、問答無用で飛ばされて来たのよ。でも一緒に来た人たち皆様子がおかしくて。あたしも本当の事を確かめたかったから、ここで待ってたの」
「他の連中は軒並み、俺達に襲いかかってきてたが」
「うん、皆夢遊病みたいになってた。何より、あなた達が『反逆者』なんて言われても信じられなくて」

絶対令は、アークス全てに発布される命令。
シャオが言うのには、アークスである限りそれから逃れられない筈。
なのに、何故かエコーにはその命令が効いていない。

「…驚いたね、絶対令を弾いてる」

その疑問を言葉にした人物が、背後から現れた。
リュードは武器の柄に手を掛けて振り返り、エコーも慌てて身構える。

「…マリア」

そこに居たのは六芒の二、マリア。
戦闘態勢に入った三人に右掌を見せるように突き出し、マリアは笑う。

「おっと、警戒する必要はないよ。六芒に絶対令は効かない。じゃないと『均衡』出来ないだろ?」

武器は持たない、という意思表示だろう。リュード達は頷いて構えを解いた。
エリがその場にレスタを散布して、歩み寄ってくるマリアに向き直った。

「どうして、貴女が」
「アタシ達の目的はどちらかっていうとアンタ達に近いんだ」

"三英雄を止める役目が偶数番(イーブンナンバー)"という言葉が頭を過る。
遅れて、赤い影がその場に飛び降りて来た。
マリアは振り向かず、その人物に声をかける。

「…斥候ご苦労、ヒューイ」
「ヒューイさんまで…?」

いつもの飄々とした言動は欠片もなく。
そこに居たヒューイは、いつもと全く別の「六芒均衡」の顔。

「概ね予想通りだ、姐さん。三人が三人、準備万端で待ち構えているぜ」
「ダーカーどころか、人っ子一人通す気は無いって事か」

ヒューイは厳しい表情のままマリアと肩を並べ、リュード達に向き直る。

「三人共、よくここまで来てくれた。…それと、道中助けに行けなくてすまない。言ってしまえば、同じ六芒の暴走に近いものだってのにな」

そうして目を伏せるヒューイに。
リュードは驚きと同時に安堵を自覚する。

「…やはり、三英雄は…」
「そうさ。ルーサーの傀儡なんだよ。だからアタシ達が止めてやるんだ」
「その為にこそ、オレ達がここに居るんだからな!」
「それにしても…」

と、好奇の目で自分をジロジロと見つめてくるマリアに、エコーはおもわず後ずさった。

「な…何ですか?」
「思わぬ所に逸材が居たもんだね。…あんた、名前は?」
「え…エコー…です」

ほう、と気付いたように視線を上げるマリア。

「そうか、あんたが。なるほどね」
「え????」

わけも分からず目を見開くエコーに、マリアは意地の悪い笑みを浮かべる。

「あんたはどうするんだ?彼らを問いただすなら全部片付けた後にして貰えるかい?そんな暇は無いんでね」

マリアの、切り捨てるような容赦ない言葉に。
エコーは一度目を閉じて首を振ってから、驚くほど真っ直ぐな目でマリアに正対する。

「…そんな事をしに来たんじゃないわ」
「エコー…?」

エリが訝しげにエコーを見ると。
エコーの目はエリに、そしてリュードに注がれ。

「あたしには、あたしの目的がある。あたしとゼノ…ううん、あたしはずっと、この人達を見てきた。だから、なにか理由があるって事も、それが今やらなきゃならない事っていうのも分かる」
「…ふうん?」
「それが、あたしのよく知ってる『お節介な先輩』がこの状況でやりそうな事、だからあたしは―あなた達を手伝うわ」

そこに居たのは、ゼノに依存していたか弱い女では無かった。
言葉の端々に恐怖が滲んではいるものの、それでも彼女は自分を奮い立たせてリュード達の前に立っている。
自分の意志で、自分の力で今ここに存在する一人のアークスだった。
満足気に、マリアは背筋を伸ばし。

「よし、アンタも付いて来な。ただし、自分の身は自分で守る。此処から先は、桁違いだよ?」
「…分かってる」

エコーの、胸の前で握りしめた手が僅かに震えたのをエリは見たが。
同時に、それを「僅かな闘気」に変えたのを見逃さなかった。
実戦で育つタイプなのかな。
呑気に、そんな事を考えていたりもした。





区画を隔てた扉を抜けた時。
その場の空気が凍りついたような気がした。
剣先を振り、エコーがわずかに怯えたようにあたりを見回す。

「…え…なに…何か寒気が…」
「冷気…寒い…?ううん、怖い感じ…?」

マトイが思わず手にしたロッドを両手で握りしめる。
刹那、ヒューイが怒号を発して彼らの前に立った。

「―下がれ!!!」
「!」

その場のフォトンが桁違いに膨れ上がったのを、エリは見る。
それは視覚的に「爆発」を伴い、彼らの行く手を阻んだ。
元々フォースとしての素質が高いエリとエコーが顔を見合わせた。

「ラ・フォイエ…?!」
「そんな、一体誰?!」

エコーが思わず発した言葉に、マリアが苦笑した。

「誰―なんて、問うまでもない。マザーシップに侵入した『もの』を討ち滅ぼす、最強の番人達だ」

鋭い視線の先。
火炎が収まったその先に立ち尽くしていた三人が、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来た。
マリアの目が、更に釣り上がる。

「―それは当然、アークスに於ける最大戦力こそ、相応しい」
「…それって…」

エリの声に緊張が走った。
リュードはゆっくりと、その禍々しい大剣を手にする。
―とうとう、来たか。
ヒューイが目を見開き、大げさに身振り手振りを付けながら二歩前へ。

「おいおい、久々に会えて喜んでくれてるのか!随分手荒い挨拶してくれるな!―なあ、クラリスクレイス!!!!」

大声でヒューイは、攻撃を仕掛けてきた者の名を呼ぶ。
ラ・フォイエを撃った張本人、名を呼ばれたクラリスクレイスは、目を合わせたく無いとでも云うように顔を背け、目を閉じて黙した。
エコーは、そこにいる六芒の三に驚きを隠せない。

「…カスラさん…」
「これはこれはエコーさん。ご無沙汰しています。ところで―」

相変わらず、その作り笑いを崩そうとしないカスラ。
その視線が、リュードへと流れる。

「貴女の隣にいらっしゃる方を『反逆者の首領』と通達した筈ですが?どうして殺さないんです?」

カスラの声のトーンが、下がった。
それが何を意味するか分からないエコーではない。
彼女は胸を張り、一歩前へ。

「この人は、私の『後輩』だからよ。後輩を守り通すのが、先輩なの」

それは、彼女のパートナーが良く口にしていた言葉でもあった。
リュードの顔に、思わず笑みが零れる。
間違いない。
10年のブランクの上「新人」として登録された自分にとって、エコーやゼノは間違いなく「先輩」だ。
事ここに及んでこんな大口が叩けるエコーに、関心すらする。
そしてカスラ、クラリスクレイスを従えている中央の白き伝説―レギアス。
彼らの前に仁王立ちし、ようやく口を開いた。

「…久しいな、マリア」

それは驚くほど冷ややかな声で、彼らを威圧する。
マリアはゆっくりと、その右手を後ろへ。

「…出来るならこういう形で会いたくはなかったよ、レギアス」
「私もだ」
「アンタの頑固さは知ってたつもりだったけど、よもやここまで融通が効かないとはね」
「…そちら側に立つと云う事は…『敵対の意志あり』と受け取るが?」

一触即発。
まるで満杯の火薬庫の中に放り込まれた、バチバチと火の粉が飛び散る火種。
エリは、その爆発寸前のフォトンの乱流に飲み込まれまいとロッドを構え直す。
マリアはその手に汎用のパルチザンを下げて数歩前に出、目尻を釣り上げた。

「意志も何も、そのとおりさ。六芒均衡は馴れ合いじゃない―それはアンタが一番知ってるだろ?」

マリアはそう言うと構える。同時にヒューイがワイヤードランスを引き抜くと。
呼応するようにレギアスが世果をゆっくりと構えた。

「ならば、もはや問答は無用。アークスに害為す存在を討つ。それが、三英雄だ」
「―そういう思い上がりを止めるために、アタシ達偶数番が居るんだよ」
「フン!!!」

バキィン、という音が遅れて来た。
レギアスの世果が、気付いたらリュードの目の前にあった。

――疾い!

疲労が蓄積しているとは言え注意はしていたはずなのに、予備動作すら見えなかった。
それもまだ「封」状態の武器である筈なのに、リュードは避ける事が出来なかった。
既の所で、マリアの槍がその刃を割り込むように止めていなければ今頃。
これが、六芒均衡の一と、自分との差。

「ぼうっとしてるんじゃない!三英雄の狙いはアンタだ!」

言われて、我に返る。
確かにそのとおりだ、力の差を嘆いてる場合じゃない。
そして気づくと、他の二人の敵意も自分へ向かって来ているのがリュードには把握出来た。
しかしその敵意の一つはマリアが堰き止め、もう一つにはどうやら迷いがあった。
その「迷い」へ、真っ直ぐに突進していく一つの「炎」が。

「ヒューイ!」
「クラリスクレイス!!!」

お互いの名を呼び、武器をぶつけ合う。
絶え間なく打ち付けられるヒューイの自在槍を必死に黒いクラリッサでガードしているクラリスクレイスだが。

「ヒューイ…!」
「戦うのか、戦わないのか!どっちなんだ!」

その目は泳ぎ、攻撃の意志が全く見えない。
圧倒的な物理の力でじりじりと押してくるヒューイに、クラリスクレイスの声が震えた。

「ヒューイ…お前はどうして…"そっち"に居るんだ?…私は、"こっち"にいるのに…!」
「お前は…まだ、クラリッサの声を聞いているのか…!」

片や、六芒の一と二のぶつかり合いは、その手が見えなかった。
しかし、その場が消し飛びそうな闘志とは裏腹に、レギアスの剣さばきは冷静そのもの。

「衰えては居ないようだな」
「それはこっちのセリフだ、事務仕事ばかりしてたんならちょっとは鈍ってろ」

マリアは悪態を吐きながら、その顔が何処か嬉しそうに見えたのは気の所為だろうか?
視界の隅の攻防を見ながらも、リュードはカスラの手元のガンスラッシュから撃ち出されるフォトンの弾丸を次々と弾き飛ばし、またその刃を打ち返し、カスラのもう片方の手から繰り出される法撃をエリが相殺して行く。
ふと、ナーゲルリングを繰る手を止め、カスラは一つため息を付いた。

「やれやれ。誰も彼も攻めあぐねていますね。まあ当然ですか」
「…本気でやってないとでも言いたげだな」
「こっちは三人がかりよ?」

リュードも、それは感じていた。
先程までの死闘とは程遠い感覚。
目の前のカスラの攻撃から、殺意を感じ取れないからだ。
よっぽど、レギアスの一撃の方が重かった。
そも、カスラは法撃メインのテクターだった筈。

「まあ、レギアスとマリアさんが本気でぶつかったらここが消し飛びます。そんな愚行をする訳がない。クラリスクレイスも、アークスとの戦闘など考えて居なかったでしょうし」
「そういう意味じゃ、お前さんが一番上手く立ち回れそうなんだがな?」
「いやはや、お見通しですか。でもそう上手くは行きませんね、リュードさん、エリアルドさん。そして―」

戦う彼らの後ろで、必死に支援テクニックを唱え続けるマトイが居た。

「そちらのお嬢さんも、見事です。これだけの人数に、その場から支援を行えるとは」
「―ば、バレちゃった?」
「助かるわ、マトイちゃん」
「それに比べて―…」

カスラの視線が、エコーへ。
おぼつかない手で、大剣を手に必死にカスラへ攻撃していたのだが。
その刃は一度たりとも、彼に届くどころか近寄る事さえ出来ず。
いとも簡単に、エコーの剣をカスラは弾き飛ばした。
冷たい床に、無様に転がるエコー。

「きゃ…!」
「エコー!!!」

エコーに対してガンスラッシュを突きつけるカスラ。
リュードがその刃を押しのけるように割って入る。

「エコーさん。正直、期待はずれと言いましょうか…、分不相応ですね。後輩を守ると言っておきながら、その実守られてばかりじゃありませんか」
「うるっ…さいっ!!!!!」

エコーは床に転がったソードを慌てて拾い直し、構えるが。

「才を見れば、補助役が適正。なのに接近戦闘とは。ゼノさんのマネでもしているつもりですか?」
「うるさいって言ってるの!」
「彼だって、本来の適正を伸ばしていれば、【巨躯】との戦闘にあっても遅れは取らなかったでしょう。あなた方は、揃ってリュードさん達の足を引っ張ってしまうんですね?」

嘲りの目で、カスラはエコーを見下す。
この上ない侮辱。
自分だけでは無く、ゼノまで侮辱している。
だが、それが事実だという事は、他でもないエコーが一番知っていた。
エコーの声が、震える。

「でもそれじゃ、誰も守れなかった。ゼノは生き残ったけど、誰も守れなかったから、だから、前に立つ事を選んだの。誰よりも前に。他の誰かにその災いの刃が届く前にって…」
「…!」

リュードは、その言葉に一瞬思考が止まった。

『他の誰かにその災の刃が届く前に、自分が前に立つ。それがアークスだ』

それは、自分がハイスクールに上がったばかりの頃に、父親―育ての親から聞いた言葉だったからだ。
その言葉を聞いて、リュードはアークスを目指そうと決意したのだから。
それを何故、ゼノが知っていたのか。
いや、自分だけではない。エリも初めは、そうやって戦っていた。適正ではないハンターを続け、自分という存在を見つけ出し、守るために。

「たとえ、貴方の言う通りそれが枷になっているのだとしても…その志を否定させたりしない!!!」
「エコー!!!」

勇猛にそう言い放ったものの、エコーのその構えは言葉とは裏腹に恐怖と畏怖が入り混じって引け越しになってしまったまま。
リュードが止めようとするも、既に大上段に振りかぶってしまっていた。
もう一つ、カスラはため息を尽き。

「…貴女の言わんとしている事は分からなくもないです―が。易々と挑発に乗ってはいけませんよ?」
「―!」

撫でるようにエコーの刃を避け、返す手で容赦なく彼女の喉元にガンスラッシュの刃が突きつけられる。
テクニックを使うまでもないと、カスラのその顔は冷たい笑みが浮かんでいた。

「エコーーーーーー!!!!!!」

エリの叫びが、遠く聞こえる。
迫る死の淵に耐えきれず、エコーは固く目を閉じてしまった。






スローモーションのように、カスラの手にあったナーゲルリングが弾け飛んだ。

「よく言ったぜ、エコー」
「――――!」

レギアスの、剣を持つ手が止まる。

「あれは…!」
「は、やっと来たね」

レギアスの反応を、マリアが鼻で笑い飛ばした。
してやったりと云う所か。
赤い髪と鼻の上の一文字傷。
そして、赤い見慣れぬ戦闘服を身に着けた男が、これまた見たことの無いガンスラッシュのガンモードでカスラに狙いを定めている。

「いっやあ、おっそろしい位ドンピシャ。悠長な奴等置いて来て正解だったぜ」

エコーの耳に、聞き慣れた声が届いた。
聞き慣れた、そしてもう二度と聞く事が無いと思っていた声が。
リュードは思わず、口の端が釣り上がった。
嫌味のように、その男に目を細める。

「いいや、遅いぞ」
「悪ィなリュードの旦那、この武器がなかなか言う事聞かなくてさ、ギリギリになっちまった」
「…あ…」
「ようエコー。久しぶりだな」

笑いながら、自分に歩み寄ってくる男。
エコーは声を出そうとしているのに、まともに声が出せなかった。
言ってやりたい事は山のようにあるのに、言葉にならない。
男は口をパクパクとして自分を見ているエコーに呆れ顔になった。
戯けて、エコーの目の前で手を振ってみせたりする。

「おい、エコー?エコーさーん?」
「…ゼノ…」
「おっ、やっと反応した」

ようやく絞り出した男の名前。
待てども待てども戻って来ない、待つと言いながらその心の何処かで生還を諦めていたパートナー、ゼノ。

「何だよ、久々すぎて顔忘れられたかと思ってちょっと焦ったぜ」

その飄々とした言動が、余りにも以前と変わらなさ過ぎて。
それまで努めて冷静であろうとしていたエコーの頭に一気に血が上った。

「―っ!!!」

バチィン、と乾いた音が響く。
綺麗に、ゼノの頬に手形のアザが付いた。

「ってぇ!!!!!何しやがる!!!!」
「バカ!!!!」

平手打ちをいきなり食らったゼノの怒りを更に上回るような、エコーの叫びが響いた。

「バカバカバカバカ!!!生きてたんなら連絡しなさいよ!!!すぐに帰ってきなさいよ!!!」
「うっせぇな!!!こっちにだって色々事情はあったんだよ!!!何度も姐さんに殺されかかったんだぞ!!!」
「そんなの知らないわよバカ!!!!」

その場に居た全員が拍子抜けするような、痴話喧嘩。
マリアは自分を指してくるゼノからバツが悪そうに目を背けた。

「人聞きの悪い、勝手に死にかかったんじゃないか」

エコーの、一度吹き出した怒りは留まる事を知らず、物凄い剣幕でゼノに詰め寄る。

「あたしが、あたしがどれだけ待ったと思ってるのよ!!!!」

そしてそのまま、ゼノの腕の中へ。
吹き出した怒りが、涙へと姿を変え、頬を伝う。

「どれだけ…寂しかったと思ってるのよ!どれだけ怖かったと思ってるのよ…!どれだけ…怖かったと…このバカ…」

最後はもう、消え入りそうな声になっていた。
その胸にすがりついて泣きじゃくる。
ゼノは、ようやくそんなエコーを受け止め、支えた。

「……すまん」

思わず、エリの目に涙が滲んだ。
まるであの時の自分を見ているよう。
リュードに自分を曝け出した時の、自分自身を。
ゼノはそっと、エコーの両肩に手を置いて立たせる。

「今はこれで許してくれ。お前に怒られる前にやらなきゃならん事があるんだ。それに―お前はこれ以上は厳しいだろ?」
「…はは、やっぱ、ゼノには隠せないか…」

もう、とうに限界は超えていた。それを気力だけで支えていたエコー。
ようやく戻ってきたパートナーの腕の中で、半ば気を失いかけていた。
ゼノは柔らかく笑い、その頭を撫でる。

「柄にもなく頑張りすぎなんだよ。…あんまり、無理すんな」
「…うん」

それから、ゼノはマトイに視線を投げた。

「嬢ちゃん、エコーの事頼めるか?」
「あ、は、はいっ!!!」

マトイは驚いて、それから自分に役目を与えられたと少し笑顔になり。
急いで、エコーを支えに駆け寄る。
ゼノはそっと、エコーをマトイへ受け渡した。

「大丈夫?」
「…ありがと」

エコーはフラフラと歩きながら、それでも気丈にゼノへ顔を向け。
笑顔と一緒に、拳を振り上げた。

「ゼノ、表舞台は久々なんでしょ?…だったら、思いっきりやっちゃいなさい!」
「おうよ」

笑顔には笑顔を。
エリはその二人の様子に、胸を撫で下ろした。
そして、マトイとエコーが三英雄の武器の射程外に出た事を確認し、ゼノの表情が変化する。
立ち上る膨大なフォトンがその身を守るように取り巻いた。
釣られるように、リュードの顔に闘気が迸る。

「…驚いたな、どれだけの研鑽を積んだんだ」
「旦那に世話になりっぱなしは癪だったんでね。ちょっと頑張ってみたんだよ」
「是非、手合わせ願いたいね」
「勿論だ…と言いたい所だけどな、まずはこの場を何とかしねぇと」

そんな会話をしながら、二人の視線は六芒の三へ。

「久しぶりだな、カスラさんよ」
「ええ、本当に」
「銃口を向けてのご挨拶になるとは想像もしてなかったけどな」
「こちらこそ、ですよ。まさかあの状況から生き延びていらっしゃるとは」
「リュードの旦那のお蔭でな。ギリギリ命を拾わせてもらったんだ。―返しても返しきれない恩ってやつさ」

ゼノの手に握られた、見慣れぬ黒いガンスラッシュ。
構えると、六芒の紋章が浮かび上がる。
彼が「六芒均衡」として認められた証であった。
それにクラリスクレイスが動揺して、一歩後ずさった。

「……そんな、空席だって言ってたのに…!」
「クラリッサの言う事全てが正しいって訳じゃないんだよ、クラリスクレイス…」

諭すように、ヒューイが呟く。
あの小さな歴史改変はこの時の為にあった。
ゼノが死んだままの時間軸では、この場を切り抜けられない。
だからこそ、シャオは彼らに時間を超えさせたのだ。

「…新たな六芒の四の誕生……アトッサ達が病死して以来11年ぶり…ですか、偶数番が揃うのは」
「長いこと欠番だったらしいな、まあ俺がそこに収まるなんて思っても見なかったが」
「私も、その『戒剣ナナキ』を扱える人物が現れるとは思いもしませんでしたよ」

吸い込まれるような黒い刀身。その周りに、紫色のフォトンが固着している。
小さな武器であるのに、それに込められたフォトンの膨大さがひと目見て分かる。
創世器と呼ばれる、六芒だけが持てる伝説の武器。
それをいとも簡単にくるくると振り回し、戯けてみせるゼノ。

「だろ?俺がハンターやってたのも無駄じゃなかった、って事さ」

カスラは自戒するように、小さく首を振った。

「…違いありませんね。先の発言は撤回させてもらいます」
「だからって、ここを通しちゃ…くれなさそうだな」
「…ええ、むしろここからです」

カスラの顔から笑みが消え。
背筋を正し、周辺のフォトンを一気に己に集めた。

「謳え燐具…フローレンベルク」
「!」

それは、六芒の三の証である創世器。
大きな渦巻き貝のような、透き通った水色の導具。
カスラの手にそれが収まった時、大きな六芒の紋章が浮かび上がった。
そこから抜き出したタリスは、カスラの右手で小さな銀河のように渦巻いている。
リュードのペインを持つ手に力が込もった。

「…ここからが本番、って事か」
「奴さんがようやく本気を見せるって言うんだ、俺らも息の合った所を見せてやろうじゃないか」

隣に、ゼノが肩を並べる。
何度か彼とは共闘した事はあったが、これほどまでに頼もしいと思えた事は無かった。

「―良いだろう」
「響け戒剣、ナナキ!」

それが、創世器を解放する為の言霊とでも言うのか。
ゼノが構えを変化させると、呼応するようにナナキの黒い刀身が一気に剥がれ落ち、白刃がむき出しになる。

一方で、彼らのやり取りを横目で見ていたヒューイ。
己にフォトンをデタラメにぶつけて来ていたクラリスクレイスに視線を落とす。

「クラリスクレイス、お前…今、楽しいか?」
「……」

答えずに、闇雲に炎テクニックをヒューイにぶつけ続けるクラリスクレイス。
それを簡単にあしらい、ヒューイは問い続ける。

「なあ、お前いつも言ってただろ?楽しい事をやりたいって。今はどうなんだ、楽しいのか?」
「………!!!!!」

クラリスクレイスの表情が歪む。
それを見て、ヒューイは声を荒げた。

「おい、聞いてんのか?答えろよ!クラリスクレイス!!!」
「うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!!!」

特大のラ・フォイエをぶっ放し。
クラリスクレイスはヒューイを引き剥がすように間合いを取った。

「私を惑わすな!私を困らせるな!」
「クラリスクレイス!」
「わ、私にはクラリッサが居れば良いんだ、クラリッサが全部教えてくれる!それに従ってればいいんだ!間違ってなんか…ないんだ…!!!!」

半ば、泣きながら。
必死に、己の手にある黒いクラリッサを振り回し、ヒューイの言葉から耳を塞ぐ。
否定されたくない。自分がやって来た事、今やっている事、自分は間違っていないと思考停止し。
その為に、ヒューイを否定する。
それこそが「間違い」だと知っているのに。
ヒューイはそれまで持っていた自在槍を収め、ひとつ大きな息をした。

「…そうか。じゃあもう、遊びは終わりだ」
「…!」

今までのヒューイではない。
いつもの、道化のような素振りなど欠片もない。
そこにあるのは、紅蓮の炎のような闘気と殺気を隠そうともしない一人の男。

「オレは六芒の六として、六芒の五クラリスクレイス…貴様を止める」
「…ひ…!!!!」
「目覚めろ破拳―ワルフラーン!」

その表情が、クラリスクレイスに初めて「恐怖」を感じさせた。
怯えて後ずさり、首を振る。
レギアスをして『戦闘力だけならばどの六芒よりも強い』と言わせしめた男、ヒューイの本気。
それは自在槍ではなく、鋼拳を持った時に発揮される。
拳を突き上げると、その手に彼自身を表すような炎のナックルが装着された。
武器に収まり切らない炎のフォトンが、拳を守るように取り巻く。
彼自身の闘気と相まって、その身が一つの燃え盛る業火のようにも見えた。

「心に刻め!これが、敵対するって事だ!!!」

容赦無い殺意が、クラリスクレイスへと真っ直ぐに浴びせられ。
彼女は知らず、叫んでいた。

「う…ううう…うわぁあああクラリッサああああああああああああああ!!!!!!」




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