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Black dream~黒い夢~(8)

闇、どこまでも続く闇。
何処に居るかすら、廻りに何が在るかすら判らず。
ただ、意識だけが朦朧と漂う。

私は何をしているの。
此処は何処なの。

大きな意思の流れを感じる。
黒い河の奔流に自我が崩壊しつつある心は、抗う術も持たず逃げ出す事も出来ない。
窒息するような息苦しさと同時に手足が溶けていくような、そんな感覚。それすら何故か「甘美」に感じている自分。
それが「闇の侵食」。

もう、いいかな。
何だか、凄く疲れた。

闇の渦の中心に次第に引き込まれて行く魂は、その力を次第に奪われて行った。
考える事すら、出来なくなって行く。

エリアルド。
お願い、気付いて。

誰かが呼ぶ。
エリアルドって誰?
ああ、私の事か。

ふと気付くと、そこに少女が居た。

「…マトイちゃん」

そう声に出した瞬間に、不意に闇の中で「心」が己の姿を形取る。
「自覚」が、自分の姿を取り戻させた。
マトイはぼんやりと闇に浮かぶ。

「エリアルド…自分が何処に居るかわかる?」

判らない。
何故ここにいるのかも。
静かに首を振ると、マトイは項垂れた。

「ここは、黒い夢へと到る道」
「黒い…夢?」

闇の渦の中心に、マトイは視線を送る。

「遙か昔、遠い昔。ある星に『千年に一度蘇る闇』と呼ばれた巨大な『存在』があったの。長い長い戦いがあった。膨大な犠牲の末それは『別の星』へその『棺』ごと封印された」
「千年に一度蘇る、闇?」

マトイの言葉は、今の朦朧としたエリには理解出来なかった。
それでも彼女は語り部のように滔々と言葉を続ける。

「その後もその『存在』は長い間ずっと『復活』と『封印』を繰り返してきたけれど、ある時それを利用しようとした『ヒト』が現れた。勿論ヒトの手に余る力は簡単に暴走し、結果として封印された星は破壊された。そして『闇の存在』と共に『ヒト』は宇宙を流浪する事になったの。『箱舟』に『闇』を押し込めて、その存在に怯えながら、それでもそれを利用したいが為に」
「それは、オラクルの事…?」

宇宙を旅する巨大な移民船団。
学校でも、単純に「人口増加の対策としての宇宙の開拓」としか教わらなかった。
そこで生まれ育ったエリ達のような世代にはそもそも本当の理由など教えられる筈もなく。

「この『黒い夢』は、その『存在』が肉体を得るために作り出した『道』。いかに巨大な存在でも、『この次元に存在するための器』が必要だから」
「器…?」
「あなたがその器に選ばれてしまったの」

私が?
紅い瞳が、哀しくエリを見つめている。

「あなたは、自身の力を『フォース』になった事で開放してしまった。闇はあなたのその大きな力に惹かれて、あなたを選んだの。『闇を利用しようとしたヒト達』が意図的に作り出した『器』が用意されていたのにね」

!!
それが何か、誰かを、私は知っている。
何故だろう。こうして「侵食」を受けているからなのか。
次第にはっきりする「意識」。
エリは必死にマトイへと近寄ろうとするが、マトイは自ら彼女への距離を取っているように見えた。

「マトイちゃん…あなた一体…?」
「私は一番最初に『ヒト』に作られた『器』。でも私にはその資質が無かった。あなた達が戦っていた『ダーク・ラグネ』も、エネミーを遺伝子操作して生み出された器の成れの果て。闇を制御出来る力なんてどこにもないのに…」

視線を落とし、まるで謝罪するように頭を垂れる。

「ごめんなさい。私が止められていれば…」
「違うわ。あなたのせいじゃない」

愚かなるヒト。
ヴォル・ドラゴンの言葉は、嘘ではなかった。
己の「力」を過信し、闇を利用しようとする『愚か者』達の存在。
もう、好きにはさせない。

「戻らなきゃ」

自然に、その言葉が出た。

「エリアルド…でもそれは…」
「わかってる。でも私自身が『闇へ到る道』を絶ち切らなきゃいけない。私が引き寄せた闇だから」

意志の力は、渦に引きずり込もうとする闇の力に優る。
次第に闇の渦から離れる二人に見えたもの。
オラクルの中心に座する「マザーシップ」と呼ばれる絶対不可侵の領域から立ち昇る、巨大な闇そのものだった。



「エリアルド!!!」

意識が突然、戻る。
目の前に、リュードが居た。

「あ…」
「…気付いたか?」

彼女の両肩を抑えるようにして立っている。
恐らくは、彼女の暴走を止める為。
その身は到る所に裂傷が走り、額からは血が流れ、それでもエリの意識が戻った事に安堵の表情を浮かべた。
ようやく肩から手を離したリュードは、そのままがっくりと片膝を付いた。

「リュード?!」
「流石にちょっと、きつかったかな。もう回復薬(トリメイト)も底をついてた」

辺りに散らばる恐ろしい数のダーカーの残骸。
焼け焦げたもの、凍りついたもの。中には原型をとどめていないものすらある。
全ては、暴走したエリの為した結果。
エリはその惨状に血の気が引いた。
自分の意識の及ばない所での「力の行使」がこれほどまでの惨劇を引き起こすとは。
急いでレスタを唱え、回復を図る。

「助かった、ありがとう」

目の前に居る男の命すら奪おうとしていた事実に、エリの顔に「懺悔」が色濃く浮かんだ。

「ごめんなさい…私のせいで」
「お互い様だと言ったろう?どうって事は無いさ」

己の身体の傷の回復を確かめて立ち上がってから、リュードは笑った。
その直後に視線を右手に移した彼の目に、警戒の色が浮かぶ。

「それにまだ、終わっていない」
「え?」

そこに、四肢をむき出しにして蹲る「ダーク・ラグネ」が居た。
リュードの必死の攻撃と、エリの暴走という相乗効果が闇の蟲の鎧を引き剥がした。

「随分とタフな奴でな」

その言葉が終わらない内に。
ダーク・ラグネが再び「咆哮」を上げた。

「!!!」

リュードは必死にその声に抗った。
エリも同じように両耳を塞ぎ、その「声」に抵抗する。
直後に感じる、闇の渦の気配。
再び沸きあがるダーカーの群れ。
エリの心に、マトイの去り際の言葉が浮かぶ。

「ここまで道が開いてしまった状態であなたが器である事を拒めば、『闇の意思』は新たな器を求める」

器。
意図的に作り出された器とは間違いなく、今自分の目の前に居る存在。
今彼が暴走すれば、今度こそ『闇の存在の依代(よりしろ)』になってしまう。
それだけは、させない。
ゆらりと、エリの身体が動いた。

「エリアルド?!」
「もう沢山だわ。闇に飲まれるのも、貴方が暴走するのを見るのも」
「?!」

突き放すようにエリは呟き。
ゆっくりと、ダークラグネに歩み寄る。
それから、徐に闇の巨蟲の背中へと飛び移った。
そこに、「ダーク・ラグネ」の血の色のようなコアがある。

「何をする気だ!」
「来ないで」

駆け寄ろうとするリュードを止めるように、エリは彼を見据えた。
エリは唐突に巨大なフォトンを抱えるように攻撃魔法を唱え始めた。
それは「光」。
父親の残した、最後のテクニック「グランツ」。
闇の道をを絶つには強力な光が必要。
それは今のエリには「本来扱えない技」だったが、それを唱えるだけの「法撃力」はあった。
きっとこれは初めから決まっていた事なのかもしれない。
他に、方法は無いのだから。

「貴方は生きて」
「?!」

呆然と見つめる事しか出来ずに居るリュードへ、優しい笑みを浮かべる。

「貴方が生き延びたのには、理由があるはずよ?」

エリの言葉が、彼の記憶の最後のパズルのピースを呼び寄せた。
十年前に己が救った一人の少女。
己の眉間の傷。
怯える少女に、自分がかけた言葉。

まさか、あの時の…!!
彼女の頬の傷が、それを証明していた。
エリの唇が、何かを呟いている。
その言葉は、グランツの発動する音にかき消された。

辺り全てを巻き込み、その光は「闇」を打ち消し。
最後にダーカーの残骸すら吸い込んで爆縮、一気に消え去った。

全てが消えた。

エリも。

ダーカーも、ダーク・ラグネも。

マザーシップから立ち昇っていた「闇の道」すらも。

光の筋が消えた時、音を立ててアリーナの中央に「ローザクレイン」が落ちる。
それは、彼女の生きていた「証」。
ただ一人取り残されたリュードはゆっくりとそれに歩み寄り、崩れるように膝を落とした。

「馬鹿な…事を…エリ…」

己の手をすり抜けて、消えていってしまった。
自分が救った筈の命が、自分を救う為に。

「うあぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

慟哭が、アリーナに響き渡った。




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