PSO2二次創作小説「時の輪」(5)

この小説は、ファンタシースターオンライン2(PSO2)のストーリーを元にした二次創作小説です。
オリジナル要素も含まれますのでご注意ください。
ゲーム内「マターボード」をある程度進められている方(おおよそ3枚目をクリアした後くらい)でなければ、ネタバレ状態になりうることをご承知下さい。

初めての方はまず

PSO2二次創作小説「Black Dream」~黒い夢~

をお読みになる事をお勧めします。

PSO2二次創作小説「時の輪」

「プロローグ」

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↓PSO2二次創作小説「時の輪」(5)
意識が、混沌から浮き上がる。
自分の置かれた状況を把握しようと、何度も瞬きする。
薄暗い場所。

「・・・?」
「気付いたか」

声のする方向に顔を向けると、少し離れた場所にリュードが立っていた。
状況が把握出来ずに暫く呆然としていたエリだったが。
ようやく、思い出した。
凍土で大きな獣に襲われて、滑落した事を。
小さな洞窟の中に、自分が横たわっている事を自覚する。

手も指も動く。
脚も大丈夫。
身体全体に打撲のような症状はあったものの、外傷は無いようだ。
自分の状態を把握してから、エリはようやく起き上がった。

「・・・生きてる」
「大丈夫そうだな、良かった」
「助けてくれたの?」

意識を失う寸前に自分を掴まえた手は、リュードだった。
だからこそこうして生きていられるのだろうが。
彼はふと視線を逸らし、言葉を濁した。

「助かったと言えるかどうか・・・」
「どういう事?」
「装備品を失ってる」
「・・・え!?」

慌てて、エリは己の身を確認した。

「!」

無い。

腰に常備しているバックも、緊急用のバックパックも。
気づけば、自分が愛用していた「クシャネビュラ」すら無かった。
見ると、リュードの背にある筈のギガッシュすら見当たらない。

滑落した場所の真下に川があったお陰で地面に叩きつけられる事は無かったが、かなりの時間を流された。
何とか流れの緩い場所へ泳ぎ付き、水から上がる事は出来たものの。
気を失ったエリを抱えた状態ではこの洞窟に逃げ込むのが精一杯だった。
ブリザードのせいか、通信すら繋がらない状態。

「今あるのは、君の下に敷いてあるサーマルブランケットとモノメイトが2つ。そしてそれだけだ」

「武器の破片」が、エリの足元に置かれていた。
殆どの物が流失した状態の中で、「それ」が残っている不思議。
しばらくそれに視線を置いてから、リュードはモノメイトを1つ投げて寄越した。

「・・・ありがとう」

ゆっくりとそれを飲み、体力が少し回復するのを確認してからもう一度状況を確認する。
不幸中の幸いか。
確かに外は猛吹雪だが、殆ど寒さを感じない。
水に落ちた筈なのに「フォトンシールド」のお陰で身体は濡れずに済んでいる。
謎の多い「戦略OS」ではあるが、アークスを守る為の機能が有る事は紛れも無い事実。

「通信さえ回復すれば、何とか救助も望めるが・・・」

武器さえ残っていれば、自力で脱出も不可能ではないだろうが。
丸腰のまま凶暴化した原生生物の居住する地域へ出ていく事程無謀な事はない。
エリは大きく頷いて、笑みを浮かべた。

「とりあえず、生きている事を良しとしましょう。出来るだけ体力を温存して、ブリザードが収まるのを待つしか無いわね」
「そう、だな」

そう答えた時、リュードが洞窟の壁に寄りかかった。
脱力するように。
訝しげに、エリはリュードを見る。

「どうしたの・・・?」
「何でもない」

言葉から突然、力が失われる。
おかしい。
エリは立ち上がり、リュードへと近寄ろうとする。

「来るな」
「・・・え?」
「大丈・・夫・・」
「リュード?!」

言葉とは裏腹に、そのままずるずると座り込んでしまう。
駆け寄ってその手に触れた瞬間、エリは驚愕した。

「・・・っ・・・!?」

氷のように、冷えきった手。
エリの手を振り払おうとして、そのままどっと倒れ伏してしまう。

「リュード!」
「構うな・・・」

薄暗い上、離れていて解らなかった。
いや、あえて離れていたのだろう。
自分の状態に気付かれないように。
近くで見てようやく分かる、血の気が完全に失われた青白い顔。
エリは急いで己の端末を使い、リュードの状況をスキャンした。

「フォトンシールドが・・・動作してない?!」

本来アークスを守るべき「フォトンシールド」が、全く機能していない。
リュードの戦略OSがいくつものエラーを吐き続ける。
火山洞窟でも凍土でも平気でアークスが活動できるのはそのシールドがあってこそ。
いくら強靭な人間でも、無防備のまま過酷な条件下に晒されてしまえば命の危険に陥るからだ。

流されている時、戦略OSを格納する背中のアーマーが川底の岩に何度も打ち付けられていた。
エリを庇うように抱えていたリュードに、それを防ぐ手段は無く。
本来身体を守るべきハンタースーツが完全に水に浸かってしまった為に、体温を奪っている。
加えて、この冷気。
ホログラフが示している体温は31度。呼吸も心拍数も極度に低下している。
そんな状態で、気力だけでエリが目覚めるのを待っていたのだ。
だが、既に意識は混濁し始め、言葉を返す事すら出来なくなっている。

「低体温症だわ・・・このままじゃ・・!!」

死。
脳裏に浮かんだその言葉が、一気にエリの心を凍りつかせる。
駄目、落ち着いて。
何とか、体温を戻す方法を考えないと。
かといって、下手に暖めてはいけない筈。

エリは辺りを見回して、自分が今まで座っていた場所にあったサーマルブランケットを取る。
それをリュードの身体の下へ押しこむように敷いてから、彼のアーマーに手を掛けた。

「ごめんなさい、全部外すわよ」

形振りなど構っていられない、命には変えられない。
答えを待たず、リュードの身体を守っていたユニットを外し、ずぶ濡れになったアーマーを引き剥がす。
これで、体温を奪われる事は無くなる筈。

「!?」

顕になったその身体に、エリは呆然となった。
至る所に刻まれた、大きな傷跡。
無傷の場所を探す方が難しいほどに、その身体には生々しい傷が無数にある。
そしてその中でも、胸にあるひときわ大きな「刀傷」。
まるで「大剣でその身を貫いたような」。

どうして、これで生きていられたのか。

サーマルブランケットでその身体を包んでから口に少しモノメイトを注ぎ入れ、それを飲み込んだ事に安堵する。
もう一度スキャニングすると、少しずつではあるが体温が上昇し始めた。
後は本人の気力と、ナノマシンの修復力に賭けるしかない。

じっとモニターを見つめている時に、エリの目に涙が溢れた。

この男性(ひと)は、どんな思いで、こんな傷を背負って生きてきたのだろう。
自分の中途半端な憧れや想いなど、吹き飛ばされてしまうような「現実」。
どうすればこの人の心を溶かす事が出来るのだろう。

自分の無力さに、ただ、涙が止まらなかった。



人の焼け焦げた匂い。
銃弾の音。
己の手にある大剣がなぎ倒す「敵」の悲鳴。

逃げろ。

駄目だ戦え。

逃げろ。

戦え。

二つの声が、ガンガンと脳裏を叩く。

「お前には、戦う事だけしか出来ないんだろう?」

子供の声がする。

血の海の中に立っている己が居た。
周りに「ヒトだったもの」の残骸が散らばる。
幾つも、幾重にも自分を取り巻く「骸」。

また、この夢か。

「夢?お前がした事だ」

血の海の上に浮かぶように、一人の子供が立っている。
自分にそっくりな。

「お前の罪は一生消えない。血に濡れた手は二度と元には戻らない」

解っている。
そんな事は。

「わかっていないさ。ならば何故戦う?それはお前が『生まれた時から決められたレールの上』を歩いているからさ」
「・・・レール?」
「お前には、何もない。誰もいない。今までも、これからも」

誰もいない?
俺には、両親が居た。

「両親?違うね。あれはお前を便宜上『育てた』だけだ。お前には親など居ない」
「・・・どういう意味だ」
「知りたいか?」

同じ顔の子供が何人も、浮かんでは消える。
闇の中から手招きをする「意思」。

「お前は、俺達を踏み越えて生きている。幾つもの『俺』を踏みにじり、うず高く積み上げられた『俺』の骸の上に立っている。だから、お前は戦うしか無いんだよ。たとえその手が、お前が一番大切に想う人の血に染まってもな」

俺が一番、大切に想う人。
気付くと、手にした大剣が何かを捉えている。

駄目だ、見るな。

見るな。

「見ろ。目を背けるな。お前の未来は、それだ」

自分の刃に貫かれたその人を、リュードは見た。
己を見たまま、事切れているその女性を、見てしまった。

声にならない慟哭が、木霊する。



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